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株式会社サン・アド


インタビュイー
三好 健二氏 代表取締役社長
香川生まれ。奈良育ち。神戸大学卒。91年サントリー入社。輸入、営業、秘書を経て、01年宣伝部。PEPSI・BOSS等食品、角ハイ・プレモル等酒類の宣伝部課長、RTD部課長を経て、14年食品宣伝部長。21年サン・アド社長。「オープン」「フェアネス」「チャレンジ」を掲げ、革新に取り組む。ものまね、卓球が得意。ソムリエ。

優れたクリエイティブで「役に立つ」

日本を代表するクリエイターが立ち上げたサン・アドは、クリエイティブブティックとプロダクションの機能を有し、ブランディングからデザイン、映像制作、空間プロデュースまで、クリエイティブの力で「役に立つ」を体現してきた。広告コミュニケーションが大きく変容する中で、サン・アドが守り続けるもの、そして挑戦していくものとは。代表取締役社長の三好健二氏にお話をうかがった。(収録:2023年6月1日)
【 CM INDEX 2023年7月号に掲載された記事をご紹介します。】


— サン・アドとはどのような会社なのでしょうか
 1964年創業で、来年5月に60周年を迎えます。サントリーの宣伝部にいた開高健、山口瞳、アートディレクターの柳原良平が中心となり、当時サントリーの専務だった佐治敬三に働きかけて立ち上げた会社です。開高は芥川賞作家、山口は直木賞作家で、サントリー以外でも実質的に仕事をしていたこと、また日本の最先端の広告を作っていたクリエイターたちが、サントリー以外の仕事をすることで日本の広告全体を盛り上げようとしたことが設立の理由です。現在の売り上げはサントリーが半分、サントリー以外が半分となっています。
 1993年に映像制作を担うプロダクション機能を付け加え、現在はクリエイター、広告・映像制作スタッフ、プロデューサー、バックオフィスを含めて計111名で取り組んでいます。クリエイティブブティックの機能とプロダクションの機能を一定の規模感で兼ね備えている会社はサン・アドのほかになく、唯一無二ではないでしょうか。
— 広告制作をする上で大切にされていることは
 サン・アドは広告会社経由だけではなく、クライアントと直接取引することも多く、単純にクライアントとプロダクションという壁を越え、人と人として互いに認め合う、クリエイティブの力を信じるという価値観を共有する。そういうことを大切にしてきました。
 サン・アドのパーパス(存在意義)は「役に立つ」ことにあり、これは開高による創立の言葉にも「生活にほんとに役にたつ、という仕事をするのです」と記されています。昨年末に策定したサン・アドの新ビジョンでは「役に立つ」と言い切りました。「役に立つ」というと、頼まれたことをやるというふうに捉えられるかもしれませんが、サン・アドのそれは「自分の役割に立つ」こと、クライアントのパートナーとして寄り添うことです。
 人間らしくある、寄り道を楽しむといった人間賛歌、当たり前を疑う、哲学と美意識といった本質主義、周りに流されない、自分を信じるといった反骨精神。こうした価値観もサン・アドの精神として守り続けられています。
— 人々の心を捉えるクリエイティブとは
 東京広告協会の白川忍賞を受賞した葛西薫が講演で、帽子の写真と「アイ ラブ ユー」のコピーだけで構成された1983年のサントリーのギフト広告について、「冬の雰囲気をすべて含んだ空気感全体が、『大切なあなたに贈りたい』という気持ちを雄弁に語っている」と。「相手を信じ委ねることで想像力を引き出し、結果として伝わる」と、“伝える”と“伝わる”の間の話をしていて、大いに共感しました。
 広告は「売らんかな」が出過ぎるとシャットアウトされてしまいますので、コンテンツとして豊かで、お客さまにとって有益でなければなりません。一方でブランドやサービスの価値の蓄積に資するものでなければ広告として意味がない。またタイミングや世の中のムードも影響します。“WOW”があったり、既定路線の裏切りがないと人々の心は捉えることができないのではないでしょうか。葛西の言葉に象徴されるように、「What to say」より「How to say」が大切だと考えています。
— さまざまなクリエイティブワークを手掛けています
 CMでいうと、今春オンエアの『ハーゲンダッツ スプーンクラッシュ』※1のCMはスプーンを擬人化した表現が評判で、商品も売れていると聞いています。このほか山崎育三郎さんがプッチーニの名曲に乗せて歌う『アリナミン ナイトリカバー』、大泉洋さんをモーショングラフィックスで描くサントリー『ザ・プレミアム・モルツ』のCMなども制作しています。
 ユニークなところでは金沢のホテル『香林居』のトータルプロデュースをしています。アートディレクターの藤田佳子を中心に、築50年のビルをリノベーションし、「新しい金沢時間を処方する」をコンセプトとしたホテルに再生したんですね。東洋の美に触れ、ここにしかない特別な体験ができるホテルとして注目を集めています。
 また広島のG7サミットに合わせ、サントリーと日本コカ・コーラの合同企画でペットボトルの水平リサイクル推進の啓発広告※2を制作しました。「誰よりも同じ未来を見つめる存在。それが、ライバルってこと。」というコピーは岩崎亜矢の手によるものです。サステナブル訴求広告や「酒は、なによりも適量です。」といったモデレーション広告など企業姿勢を示す広告は、サントリーのDNAを一番理解しているサン・アドでなければできない仕事です。

※1 ハーゲンダッツ「あなたの知らないパリじゅわ体験」篇
スプーンが表面のチョコレートの上をフィギュアスケートのように滑走し、割れたチョコレートの下からソースがあふれる内容で、新ラインナップ『スプーンクラッシュ』の登場をシズル感たっぷりに訴求した

※2 ボトルtoボトル啓発広告
サントリー食品インターナショナルと日本コカ・コーラが「ボトルtoボトル」水平リサイクル認知拡大に向けて協業し、「G7広島サミット」に合わせ、各地の交通・屋外広告に掲出した

真骨頂は企業やブランドの顔を作ること
“ええ仕事する”サン・アドをもっと知ってほしい

— 60周年に向けた今後の取り組みについて
 企業姿勢やパーパスが世の中に伝わることで、企業、商品・サービスが好かれる時代だと考えています。そういう意味では広告や販促の手前にあるブランドや企業の顔つき、行動にこそ、クリエイティビティが求められている。イノベーションが加速し、複雑化している時代に必要とされるのは、むしろ肌触りのあるアナログなもの、つまり企業やブランドの顔を作るということで、それはサン・アドの真骨頂です。クリエイティブ機能とプロダクションを併せ持つサン・アドであれば一気通貫でブランディングのお手伝いができると考えています。
 そのためには業界関係者にサン・アドのことをもっと知ってほしい。社内で聞くと「ええ仕事をしているな」と思うクリエイターがたくさんいるのに、それが知られていないことがもったいないんですね。サン・アドへの依頼ではなくクリエイターの指名を増やすことは、その社員のキャリアアップ、そして会社の成長にもつながっていく。ですから今後はSNSなどを活用した情報発信にもますます力を入れていきます。
 指名される人材を育成するために、サントリー宣伝部への出向の道を用意したり、挙手したコピーライターを岡本欣也さんに預かっていただいたり、コンテンツ制作会社のCHOCOLATE Inc.と交換留学をしたりしています。また今年からカンヌライオンズへの派遣も始めたほか、CMの企画力向上のための社内講座を開くなど、元々の強みを生かしつつ、スキルを上げて引き出しを広げる。来年の60周年に、新しいサン・アドを見せられたらと思っています。