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株式会社ソーダコミュニケーションズ


インタビュイー
阿部 薫氏
代表取締役社長/エグゼクティブプロデューサー
1992年東北新社入社。 プロダクションマネージャーを経てプロデューサー。2013年ソーダコミュニケーションズの立ち上げに参画。プロデューサーとして足かけ25年、多種多様なCMを制作

インタビュイー
今野 俊也氏
執行役員 制作統括部 統括部長代理/チーフプロデューサー
2002年東北新社入社。プロダクションマネージャーを経てプロデューサー。ソーダコミュニケーションズ創設の際に出向。『カップヌードル』など日清食品のCMを中心に多数プロデュース

地道な積み重ねから生まれる心に刺さる広告

東北新社グループの一員である株式会社ソーダコミュニケーションズは、2013年の設立以来、広告領域を中心に質の高い映像を制作し続けている。2021年は『カップヌードル』をはじめとした日清食品の先鋭的なCMを手掛けるなどCMシーンを席巻した。代表取締役社長の阿部薫氏と執行役員の今野俊也氏にお話をうかがった。(収録:2021年11月1日)
【 CM INDEX 2021年12月号に掲載された記事をご紹介します。】


“お茶の間感”を重視したCM制作
視聴者の心に残るコンテンツを作る

— 日清食品をはじめ数々のヒットCMを手掛けています。CMを制作する上で大切にしていることとは
阿部:テレビCMに関しては“お茶の間感”が大切だと考えています。番組やウェブサイトのように自分で選んで見るものではなく、意思とは関係なく勝手に入ってくるものだからこそ、CMによって映像、音楽、コピー、タレントなど武器は異なりますが、見た人の心に痕跡を残すコンテンツに仕上げる必要があります。そのため物作りの根本である“作る力”を磨いていくと同時に、面白いことをキャッチするためのアンテナを張り続けています。
 直近では日清食品さんの『カップヌードル』※1のCMでACCゴールド、「それはまだ、流行っていない。」のコピーで展開したサントリーさんの『翠』ではACCシルバー、TCC賞を受賞しました。『Airペイ』をはじめとしたリクルートさんやダイキンさん、Sansanさん、ゼンショーさんの『すき家』などのCMも担当しています。また日清ヨークさんの「ピルクル イケボにときめく ロマンチック・ストーリーキャンペーン」がACCゴールドを受賞するなど、ウェブ広告にも力を入れています。
今野:カップヌードルの9分割のCMは、映像のバランスと音の問題をクリアすることがミッションでした。映像は9つそれぞれ作るのですが、すべてをハイクオリティーなものにすると圧が強くなりすぎますし、予算コントロールも重要な仕事ですので、クリエイティブとも相談しながら、CGを駆使した完成度の高い映像やテロップだけのもの、イラスト、実写と足し引きをしてバランスを整えました。音はそれぞれの映像からバラバラに流れると頭に入らないため、1本にまとまった際の聞こえ方をイメージして調整し、イントロの南沙良さんの呼び掛けや、ラストに「カップヌードルうまい」と言いつなぐことで回収しています。企画の時点からクリエイティブとプロデューサーの磯野(直史氏)が中心となってVコン検証を重ね、演出に入ってからも田向(潤)監督とともに映像と音の組み合わせを試行錯誤したフェーズは印象に残っています。
 『カップヌードル 辛麺』※2のCMも印象深い仕事です。安藤(徳隆)社長のアイデアが元になった企画で、キャストのふたりがアメリカを拠点としていたため、ロサンゼルスにある東北新社のグループ会社と連携し、当社の会議室でリモート撮影しました。ダンスの動きが緻密で、食べカットの麺に唐辛子を付けるといったディテールにも妥協をしなかったため、リモート映像では確認しにくい部分をスマホで撮影して送ってもらうなど、限られた時間の中で臨機応変に進めていきました。これまでに経験したリモート撮影とは異なる緊張感がありましたね。
阿部:日清食品さんのCMはエッジの効いた表現が多く、ともすればニッチになりかねないアイデアを、広く親しまれるコンテンツとして世の中に届けることに成功しています。我々がその一端を担っていることを光栄に思いますし、関わったスタッフがACCクラフト賞のエディター賞や技術賞を受賞したこともうれしかったですね。
※1 日清食品/カップヌードル「8つの味」篇
9分割された画面の中央に映る南沙良の呼びかけで、8種の定番商品のそれぞれ異なるCM8篇が同時に流れる。各CMには庄司智春、ジャガーらが登場。6月度のCM好感度調査で新作1位に輝いた

※2 日清食品/カップヌードル 辛麺「辛麺ダンス」篇
ダンサーのJackson Myles Chavisと気象予報士Nick Kosirが「♪Hot New カップヌードル」といった歌に合わせてアニメーションダンスをする内容。9月度の作品別CM好感度で総合3位となった
— 多くのクライアントに選ばれている理由とは
阿部:愚直に頑張ってきた結果ではないでしょうか。当社にはプロデューサーが10人いるのですが、ありがたいことに以前一緒に仕事をしたクリエイターやクライアントに指名されるケースがほとんどです。かつては業界的に社交の営業などから仕事が流れてくることもありましたが、最近は技量や仕事ぶりが重視される時代になったのではないでしょうか。質を求める方々と仕事をしていますので常に大きなやりがいとともにプレッシャーがあり、そのことが高いクオリティーにつながるといった好循環を生んでいると考えています。
今野:プロダクションの仕事は優秀なスタッフをアサインし、スケジュールを引いて進行するだけではなく、確実にアウトプットできるかというテストを繰り返し、企画段階からVコンを作成して徹底的に具現化します。「自分たちが物作りをしている」というプロダクションとしての意識の高さと文化が根付いているように感じます。
阿部:アンテナを張るという点では、当社にはクリエイティブパートナーズラボという多彩なコンテンツのリサーチを主に担当するセクションがあります。プロジェクトの担当者だけでは時間にも限りがあるため、アイデアの種になりそうなトピックなどを集めてもらい、プロデューサーやプロダクションマネージャーと共有しています。スタッフ個人の能力に加え、組織としてのサポート体制を構築することで、一つひとつの案件の質を高めています。
— 今後の展望についてお聞かせください
阿部:我々はプロデューサー集団ですので、一人ひとりが仕事の領域を広げることが重要で、すでにクライアントから直接お声がけいただくケースや、クリエイティブ機能を持たない広告会社からの仕事でCDやプランナーのアサインから進めるケースなども増えています。
 また東北新社グループの一員として、別のグループ会社のスタッフとの協業にも取り組んでいます。サーモスさんのCMではグループ会社のディレクターが撮影したドキュメンタリー映像を中島信也が監修し、15〜60秒にカットダウンする手法で制作しました。グループには撮影、演出、編集とすべてそろっていますのでこれらのアセットを活用しながら引き出しを増やし、どのような仕事にも対応していきたいと考えています。
今野:当社には次世代のプロデューサーを育む土壌があります。プロダクションマネージャーがプロデューサーと密に仕事をしているため、日々の業務の中でプロデューサーの仕事を学び、成長していく。教育プログラムのようなものではありませんが、バトンが若い社員へとつながれていることを実感しています。
阿部:岡康道さんが生前にとある対談で「僕たちの『仲間』はプロデューサーだから…」と書いていらしたくだりがあり、個人的にとても大切にしている言葉です。クリエイターの字コンテを映像化するときに頼れるか、面白くする方法を相談できるか、そういう存在がプロデューサーだと。我々もプロジェクト推進の旗振り役としての側面にとらわれすぎず、高いクオリティーのアウトプットを生み出すことに最善を尽くし、クライアントやクリエイターの信頼を勝ち取りたい。こうした積み重ねの結果としてソーダコミュニケーションズを成長させたいと考えています。