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株式会社ロボット


インタビュイー
加太 孝明氏 代表取締役社長
1979年に第一企画株式会社(現・株式会社ADKホールディングス)に入社。1989年に株式会社ロボットへ転職し、創業者の阿部秀司氏とともにコンテンツ事業の立ち上げに取り組む。2010年より現職

エンターテインメントを武器に愛される広告を作り出す

テレビCMをはじめ、岩井俊二監督の映画『Love Letter』、パズルゲームの『ズーキーパー』など、ジャンルを問わないヒットコンテンツを世に送り出している株式会社ロボット。創業当初より先頭に立って事業拡大に尽力してきた代表取締役社長の加太孝明氏に、広告制作における同社の強みや広告のあるべき姿などについてお話をうかがった。(収録:2021年10月4日)
【 CM INDEX 2021年11月号に掲載された記事をご紹介します。】


— テレビCMから映画まで、幅広いコンテンツを手掛けられるようになった経緯とは
 1986年に先代社長の阿部秀司が広告の企画会社として創立し、クライアントからの依頼に対応するため、翌年にグラフィックデザイン事業を開始するなど、プロダクションとしての機能を拡充していきました。
 私がロボットに入社したのは設立から2年後のことで、それまでは第一企画で主にJTの『キャビン』の担当としてブランド全体の宣伝プロモーションに携わっていました。たばこの広告活動に規制がほとんどない時代でしたから、メディアやモータースポーツといったイベントまで幅広く手掛けることができ充実感はあったのですが、環境を変えて新しいフィールドにチャレンジしたいと考え、第一企画の先輩でもある阿部のもとで働く決意をしました。当時、広告会社から制作会社への転職は非常に珍しいケースでしたね。

映画業界を一変させた“踊る大捜査線”など
さまざまなヒットコンテンツをリリース

 入社時には広告業務はすでにフォーマットが確立されていたため、阿部からは「広告以外の業務をやってくれ」と命じられ、アーティストのライブとコラボしてクライアントのプロモーションを実施するなど、メディアを使った一般的な広告とは異なるコミュニケーションの構築に取り組んでいきました。その一環として設立から8年目となる1994年に映画制作に参画し、翌年に最初の長編として公開した岩井俊二監督の『Love Letter』がヒットしました。映画は雑誌でもウェブサイトでもコーナーがあり、ニュース性が高く話題に上りやすいですよね。一時は入社試験でほとんどの学生が志望動機として本作を挙げるなど当社にとってもエポックメーキングな作品です。
 以降、Love Letterを製作したフジテレビさんの映画を手掛けるチャンスをいただけるようになり、1998年の『踊る大捜査線 THE MOVIE』が大ブレークします。当時、興行収入20億円でヒットといわれる中、第1弾は100億円、第2弾は170億円を超え国内実写映画の最高興行収入を塗り替えるなど、停滞していた映画界を一気に盛り上げるターニングポイントとなりました。日本映画のクオリティー、そしてビジネスとしての水準が高まり、当社でいえば『ALWAYS 三丁目の夕日』や『海猿』といったヒット作が生まれる土壌が育まれました。
 映画のほかにもカプコンさんのアクションゲーム『鬼武者』のオープニングCG、『ズーキーパー』というパズルゲーム、アカデミー短編アニメ賞を日本で初めて受賞した『つみきのいえ』などジャンルを問わず、さまざまなコンテンツの制作に取り組んでまいりました。
— 広告制作における貴社ならではの強みとは
 我々は広告とエンターテインメントの両輪で事業を行っているため、クライアントとコンシューマー両者の視点に立てることが最大の強みだと考えています。例えばプロダクトプレイスメントといった手法は商品の映し方などさじ加減が非常に難しいものですが、当社の知見を活用することで相乗効果を狙えると考えています。またイマジカグループの一員としてクリエイティブ、テクノロジー、人的リソースを掛け合わせられるスケールメリットがあり、映像制作から配信までワンストップで受注できる体制が整っている点も強みのひとつですね。

映画で培った制作力を背景に広告のコンテンツ化を実現

 広告のクリエイティブ面でいえば映画などで培った高い制作力を背景に、単なる広告ではない、一種のコンテンツとして視聴者に受け入れられる作品を世に送り出しています。ANAさんの企業広告「HELLO BLUE, HELLO FUTURE」※1のシリーズは2016年から手掛けており、東京2020大会が開催された2021年は夢をテーマに、空へと羽ばたく少年を描いたCMを制作しました。コロナ禍という厳しい状況下で発信されたメッセージに共感が集まり、またパラリンピックの閉会式のテーマと重なる部分があったことでも話題になりました。
 マルコメさんの『料亭の味』※2のアニメCMは、短編映画『つみきのいえ』のスタッフが手掛けたものです。心温まるストーリーの中で商品の価値を描き、YouTubeでは公開初日から多くの方にご覧いただきました。また映画館でおなじみの『NO MORE 映画泥棒』も当社によるものです。公共的なCMではありますが、フィギュアを作るなどコンテンツ寄りでもあり、映画の予告編が終わり本編が始まるスイッチとして長く親しまれています。いずれもテイストは異なりますが、エンタメと広告の両立という点で当社らしいCMではないでしょうか。

※1 ANA/企業広告「ひとには、翼がある。」篇
「夢を持てば、それは翼になる」といったナレーションのもと、翼を広げて大空を舞う青年を大坂なおみと国枝慎吾が見上げるストーリー。同社の企業広告は長年にわたってロボットが手掛けている

※2 マルコメ/料亭の味 フリーズドライ顆粒みそ「気をつけてね」篇
みそ汁をテーマに家族の絆を表現した2014年開始のアニメCMシリーズの9作目。コロナ禍で会えなくなったひとり暮らしの娘を心配する母親と、母親の愛情に戸惑いつつも感謝する娘を描いた

— 今後の広告の在り方をどのようにお考えでしょうか
 テレビCMは圧倒的に多くの人に見られるものですよね。視聴率を足し上げれば全国民が見ている計算となり、ある種の文化を生み出してきたこと、1秒当たりの映像制作の単価が最も高いことを考えると、販促ツールのようなCMが目立つ現状は少し寂しいと感じています。子どもの頃に見たCMを覚えていたり、昔のCMが好きで長い間商品を愛用していたりと、数字としては表れにくい蓄積効果があるはずで、やはり文化としての地位を取り戻すべきだという思いがあります。
 最近、コロナの濃厚接触者として1カ月ほど自主隔離し、テレビを流しながらパソコンに向かう日が続きました。テレビはCMが流れても気にならないのですが、能動的に視聴するデジタルで広告が入ると不快感が残る。デジタルシフトといわれるものの、マスとデジタルは別物で、両者は共存すると実感したんですね。またコンテンツに突然割り込んでくるデジタルの動画広告に対しては好感よりも嫌悪感が勝る可能性も否定できませんので、デジタル広告のあるべき姿を追求していく必要がありますし、マスとデジタルの最適なバランスやそれぞれの使い方の正解も探っていかねばなりません。
 例えばTOHOシネマズの幕間に上映されたショートアニメ『紙兎ロペ』は強制視聴になるため、立ち上がりの頃は不快に感じたお客さまからご意見をいただくこともあったのですが、続けていく中で次第に受け入れられるようになり、現在は人気コンテンツに成長しました。エンタメであり、企業や映画とコラボするという広告の側面もあり、当社らしいアウトプットのひとつです。メディア環境の変化で広告が邪魔者扱いされる機会が増えているからこそ、エンタメで培ってきたノウハウを活用し、視聴者を楽しませる広告作りを目指していきたいですね。