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株式会社KEY pro


インタビュイー
CEO/チーフプロデューサー
城殿 裕樹氏 
2018年に電通クリエーティブXから独立し、株式会社KEY proを設立。CM、ウェブ動画など映像制作全般のプロデュースを行う。クライアントが抱える数多くの制約の中でベストなソリューションを提案し、質の高いアウトプットへつなげる。クライアント・広告会社の垣根を超え、パートナーとしてのプロダクションワークをモットーとする。

「プロとプロをつなぐプロ」の集団

テレビ・ウェブCMの企画・制作などを行うプロダクションであるKEY pro。トライグループ『家庭教師のトライ』、タクシーアプリ『GO』、明治『明治プロビオヨーグルトRー1』など数多くのCMを手掛けてきた。同社の創業者である城殿裕樹氏は、映像制作に軸足を置き「ホスピタリティ」を大切にしつつ、業界を改善していきたいと言う。その真意と目指すものについてお話をうかがった。(取材:2023年7月21日)
【 CM INDEX 2023年8月号に掲載された記事をご紹介します。】


プロダクションの基本はホスピタリティ
相手の立場に立って考え抜く

— KEY proを設立されたのは2018年ですね
 電通クリエーティブXを経て弊社を設立しました。若い人が入りたくなる、仕事を面白いと思ってもらえるプロダクションを目指しています。そして映像制作に軸足をしっかりと置き、そこに関してはどこにも負けない仕事をしていきたいと思っています。
— 広告制作をする上で大切にされていることは
 まず手を抜かないこと。予算が限られていても諦めずに、アイデアと工夫で何とかしようと踏ん張ることです。プロダクションが諦めてしまうと、「ただ撮ればいいんでしょう」などとカメラマンさんの姿勢も変わり、スタッフの仕事が作業化してしまう。それでは良いものはできません。
 また、映像の本質や純度も大事にしています。最近は広告作りの濃度の低下を感じることもありますが、かつては制作現場において1秒たりとも無駄にしない文化が存在していました。例えば関口現監督は1フレ単位で完璧に計算して演出するので、明治『明治プロビオヨーグルトRー1』、タクシーアプリ『GO』のCMといった圧倒的に純度の高い映像が生まれると思っています。

明治/明治プロビオヨーグルトRー1「一度きりの夏」篇
「弱ってられない夏だから。」をコピーに展開。永尾柚乃演じる娘ら家族とともにキャンプに訪れた仲間由紀恵が「この夏は一度きりですから」などと体調管理として商品の飲用を勧めた。

GO「GOする!日差しの強い日」篇
竹野内豊が“剛田部長”を演じるシリーズCM。彼と部下役の石井杏奈が日差しの強い日に日陰を歩いて移動するも行き詰まり、GOで手配したタクシーに乗り「涼しい~」と声を上げる姿を描いた。
— 企業理念を「Creative×Hospitality」としています。これにはどのような思いが込められていますか
 常に相手の立場に立って、とことん考え抜くことができる「ホスピタリティ」の先に、いいものがある。それが結果として同じゴールに向かって、ともに進むことができるパートナーの条件だという思いです。
— 「ホスピタリティ」について具体的にお教えください
 若い人が働きたくなるプロダクションの基本はホスピタリティだと思っています。プロダクションで働く人の中には、忙しさで心がすり減り、何のために働いているのかと疑問に思って辞めていく人が多い。それはスキルではなく、気持ちの問題が大きいです。心地よい環境で働くことができて、互いにリスペクトを持ち「ありがとう」「助かったよ」といった言葉を掛け合う。そういうホスピタリティを積み重ねていけば、それぞれがうれしいと思うし、自分は役に立っていると感じられるのだと思います。
 これはパートナーに対しても同じです。完璧に行うのは難しいですが、例えばカメラマンさんに対して、カメラの最低限の知識を持ち、カメラマンさんが撮影した映画があればチェックしておいて「見ましたよ」という会話ができますし、どう思ったのか、今回一緒に仕事をする上でどういうところにそのエッセンスを生かしたらいいかなどを話していく。相手は喜んでくれるし、自分も働きやすくなる。それがホスピタリティだと考えています。
— 広告主との関係でも同様ですか
 2021年開始の第1弾CMから担当しているタクシーアプリ『GO』のCMは、チーム力が非常に良くパートナーシップがしっかりとできている現場です。クライアントさんも我々に対して強いパートナーシップを持ってくださり、過酷な撮影であっても感謝の言葉を常に言っていただける。ですから、スタッフみんなが働きやすい環境でした。そうした関係性ができているので、プロダクションとクライアントさんの距離が近く、サービスに対する思いといったクライアントさんの熱意も伝わってきます。その根本には緊密なコミュニケーションと互いに目配りするホスピタリティがあるのだと思います。

人と人をつなぐプロとして
プロダクションの立場から業界を改善していく

— これからの貴社の取り組みは
 「プロとプロをつなぐプロ」の集団を標榜しています。プロダクションは結局ハブでしかないと思うんです。「プロとプロ」はクライアントさん、広告会社さん、あるいはカメラマンさんやスタイリストさんといった特別なスキルを持っている人たちです。一方、弊社のようなプロダクションは何もスキルを持っていない。しかしホスピタリティや人と人をつなぐことに関してはプロなのです。その役割を果たせば、パートナーシップが生まれます。
 そういう立場から業界も変えていきたい。広告業界、映像業界は、例えば海外では当たり前の契約書が日本ではほぼないというように、海外に比べて遅れている状況です。特に労働環境ですね。プロダクションマネージャー(PM)の例で話しますと、PMの仕事は企画作業がとても大変です。資料探しなどを延々とやって、深夜や朝まで働く。あるいは、広告会社さんがギリギリまで考えられた企画が金曜日に届き、月曜にプレゼンの予定となると、PMは土日に働くことになります。
 そういった作業をなるべく分担できるように、2018年にBarberというプレゼンを専門とする合同会社の設立に携わりました。プレゼンプロデューサー、プレゼンプロダクションマネージャーがいて、企画のプレゼンだけを担当します。基本的に弊社の企画作業はBarberで完結して、弊社のPMが企画することはありません。
— プレゼン専門チームの存在が好循環を生むのですね
 専門で取り組んだほうが、企画のアウトプットの質が上がります。またプロダクションの企画作業の量を減らすという役割だけでなく、広告会社とBarberが直接やり取りして決まった企画をプロダクションに、という流れを作りたかったのです。これは企画がすべて広告会社の中で完結するという海外と同様のやり方です。
 プロダクションは本来、映像制作をメインとするわけですから、そのプロダクションの労働環境を変えたい。そして海外のように企画までは広告会社で完結させ、プロダクションはそのお手伝いをするという両軸を実現できるのではないかと考え、Barberを作った次第です。ちなみにBarberの社名の由来は理容室で、あなた好みにデザインしますというコンセプトを掲げています。
 少しずつでも我々の業界を改善していけたらと思います。そのために中小のプロダクションができる役割が必ずあるはずですから。旗振り役のようなポジションで、プロダクション全体が活性化するような新しい取り組みをこれからも積極的にやっていこうと考えています。