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株式会社 ダンスノットアクト


インタビュイー
取締役CCO/クリエイティブディレクター
岡田 知之氏 
1987年博報堂入社後、CMプラナーとして日産、資生堂、アサヒビールなどを担当。退社後、ダンスノットアクトを代表取締役の福田篤史氏とともに設立し今に至る。京都芸術大学大学院の講師も務める。

映像制作のロジスティクスを築く

1999年の設立以来、数々のヒットCMや安室奈美恵、嵐 をはじめとした人気アーティストのMVなど、優れた映像作品を作り出してきたダンスノットアクト。「すべてをインハウスで」から「映像制作のロジスティクス」へと舵を切り、少数精鋭で質の高い映像制作に取り組んでいる。同社の歩みやCMへの思い、今後の展望について、取締役CCOの岡田知之氏にお話をうかがった。(取材:2024年4月12日)
【 CM INDEX 2024年5月号に掲載された記事をご紹介します。】


制作方法をインハウスから
ネットワークを活用した“ロジスティクス”へ

— 社名の由来、貴社の特徴をお聞かせください
 代表の福田篤史と会社を作る際、元々DNAという名称にしようと考えていたのですが、港区内に同じ名前の企業があったため、踊るように軽やかに仕事をするという思いを込め、DNAをひらいて「ダンスノットアクト」と名付けました。設立メンバーにはタナカノリユキ、神谷佳成、吉江善太らが名を連ね、当初は「すべてをインハウスで」を理念に掲げていました。これはWieden+Kennedyと仕事をしたタナカノリユキが、CDの悩みをプロデューサーがその場で解決するといった彼らの制作フローに刺激を受けて発案したものです。我々も企画はもちろん、ポストプロダクションの家元社やCGのslanted社を立ち上げるなど制作過程のすべてを担い、フィードバック、フィードフォワードを繰り返すことで知見を蓄積させ、クリエイティビティーを高めてきました。近年は大きな制作会社であればインハウスは当たり前ですが、我々はその先駆けであり、小規模で挑戦したことに価値があったと考えています。
 設立から20年ほどはインハウスでYouTubeチャンネルやアプリ、ウェブ制作などにも取り組みましたが、やるべきことが増えすぎて機動力が落ちたんですね。新しいことに挑戦するには人員を割いて部署を作らねばならず、そうした調整にエネルギーを注ぐことが映像制作会社として正しいことなのかと。そのためここ数年はデジタルなどの技術的なことは専門家とネットワークを組み、「映像制作のロジスティクス」を重視するようになりました。ロジは元々軍事用語なのですが「兵站」という意味の言葉で、人員や食糧などの効率的な補給を指します。映像制作の現場ではどんなに優れたアイデアであっても、実現のためのロジスティクスがなければクオリティーはコントロールできません。企画を映像化していく中で創発的に質を高めていくための細かな発想をいかに積み重ねるか。コンテンツをマスに広げるのはクオリティー・コントロールだと考えています。
— 直近のクリエイティブワークについて
 昨年オンエアされたUHA味覚糖さんの『味覚糖のど飴』のCMが印象に残っています。石川さゆりさんが3D街頭ビジョンに現れる内容で、オンエアに合わせて新宿駅東口のクロス新宿ビジョンにも巨大な石川さんが歌ったり語りかけたりする姿を映しました。3D街頭ビジョンの映像をどのように実現するか、CMで3Dのように見せるためにどうするか。アイデアを映像化するために我々のロジスティクスが生きた事例といえます。
 昨年のWBCで活躍したラーズ・ヌートバー選手を起用した森永製菓さんの『inバー』のCMはスピード勝負の仕事でした。いち早くヌートバー選手を起用したいというクライアントの思いがあり、WBCの直後、すぐさま撮影日を決め、プロデューサーから「来週、ロスに行きますから」と(笑)。通常の映像制作フローでは考えられないスピード感でしたが、タイムリーなCMとなり、多くの話題を集めました。
 また、ロジスティクスが重要な役割を果たしているのが大型施設のCMです。制作段階ではその施設が出来上がっていないことも多くあります。その場合はプレビズといってまずCGですべて作り、後から撮影した映像をはめ込むというパズルのような方法で進行制作しなくてはなりません。こういった特殊なロジスティクスを社内できちんと共有して、次の仕事にも生かす。それが私たちの強みだと思います。

UHA味覚糖/味覚糖のど飴「3Dさゆり〜さゆりイチ推し〜」篇
女性が「のど辛いな〜」とつぶやくと、3D街頭ビジョンに映された石川さゆりが「♪あなたののどを守りたい」と歌いはじめ、ビジョンから飛び出して「さゆりイチ推し!」と商品をアピールした

森永製菓/inバー「たべる ヌートバー」篇
「inバー inバー ヌートバー」といったナレーションに合わせ、パッケージから商品やラーズ・ヌートバーがモグラ叩きゲームのように出入りする。ラストはヌートバーが「inバー大好き!」と拳を掲げる内容だ
— CMがつまらなくなったという声もありますが、CMについてのお考えをお聞かせください
 かつては広告のメインだったテレビCMがタッチポイントのひとつとなり、果たす役割がクライアントごとに変わっています。現代の視聴者はCMを見て商品を買うわけではなく、気になったものは検索するので、そうであれば認知の獲得に振り切ってもいいはずです。数々のヒットCMを手掛けた小霜和也さんはCuriosity、Attention、Search、Usage、Action、Loveという「CASUAL」を提唱していました。Curiosity、つまり好奇心から始まり、直接の売り上げにはつながらないかもしれませんが、それがなければ何も起こらないため、CMでCuriosityの獲得を目指すことは戦略的にも有効な手段だと思います。
 また最近は過剰なコンプライアンス遵守などでCMの企画段階でのクリエイティブが細くなってしまうことも少なくありません。一方、アイデアが弱いCMであっても、優れた演出を含めたロジでブーストをかければクオリティーが上がり、人々の心を動かすことができます。私たちがロジスティクスが重要と⾔っているのはそういった意味もあります。

個性豊かなロジスティクスのプロを育て
優れた映像制作を目指す

— 今後の展望についてお教え願います
 ロジスティクスのプロフェッショナルを育て、会社としてもロジをさらに強化したいと考えています。PM(プロダクションマネージャー)は予算、スケジュール、クオリティー、モラルの4つを管理するのですが、新入社員には「PMは誰でもできる。だからこそ自分らしいPMを目指してほしい」と伝えています。PMには基本の仕事を高いレベルで処理しながら個性を発揮できるよう、自己研さんしてほしいと考えています。以前、災害ボランティアに参加したディレクターが「優秀なPMがいればもっとスムーズにできるはず」と話していたんですね。物事を円滑に進めるPMの力を発揮できる領域は映像制作の現場以外にもあるのではないでしょうか。
 また当社は中途入社も多く、音楽畑、YouTuberなど小さな会社の中でさまざまな経歴の社員が働いています。それぞれの特性を生かした制作方法やロジの組み方があり、それらの共有を繰り返すことで、社員の成長につなげています。会社として仕事を管理するというよりも、個人に委ねることがダンスノットアクトらしさですから、ロジスティクスのクオリティーと個性豊かな社員とともに、優れた映像制作を目指していきます。