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vol.132 ミスター・クリエイティブ・ディレクション


サントリー/角瓶「新橋の角ハイボールがお好きでしょ。」
2014年新橋駅
『ウイスキーが、お好きでしょ』をBGMに小雪、菅野美穂、井川遥がバーの店主を演じるCMは2008年から15年にわたって展開。新橋駅の「新橋の角ハイボールがお好きでしょ。」をコピーとしたOOHも話題となった。

【主な制作スタッフ】
広告会社:電通/dof
制作会社:ソーダコミュニケーションズ/東北新社
ECD:大島征夫 CD:菅野紘樹/窪本心介 PL:赤松隆一郎
CW:岩田純平/有元沙矢香 AD:田中友朋/田中秀幸
コミュニケーションデザイナー:齋藤太郎
 大島征夫さんが亡くなった。大島さんは僕に「クリエイティブ・ディレクター」とは何かをその背中で教え続けてくれた。オリエンを聞いた直後の超的確な一言はその後の作業を完全に射抜く。たとえばJR東日本の『Suica』のとき、大島さんはさっとオリエンシートをひっくり返して「Suica=カッコイイ」と鉛筆で書いた。何が言いたいのかわからずキョトンとしていると、「これからおそらく電子マネーは乱立する。その乱立を生き抜くためには、他社の同じようなサービスがその仲間になりたいと思う世界観をつくりあげることが生命線になる」と説明してくれた。目から鱗だった。「カッコイイ」とは「引力」のことだった。クライアントの言いたいことはちゃんと言えばいい。でも僕たちの仕事はその先にあるもっといい場所へ、クライアントや商品を連れていける。そのことをいつも考え、ほかのみんなには見えていない地図を見つめて答えを探す。それがクリエイティブ・ディレクターだ。大島さんはそれを僕にいつも教えてくれた。
 亡くなる数日前に大島さんと打ち合わせをした。もう長くはないと宣告を受けているのに、それでも打ち合わせをしたがった。大島さんに見てもらうのはこれが最後かもしれない。ぐしゃぐしゃになりそうな気持ちを抑え込んで企画やコピーを持って行く。ソファーに座って1枚1枚真剣に読み込んで、「お前、まだこんなにこねくりまわしてるのか」とか「ここは100点」とか言いながら太いペンで○や×を書き殴る。そしていくつかのコピーを気に入ると「いいねえ! 楽しくなってきた!」と無邪気にはしゃぐ。「いい企画をみると元気でちゃうんだよな、わかるだろ?」と言いながら、まだ帰るなと僕を見る。あの目が忘れられない。まだ帰るな。まだお前には言っとくことがある。あの目がそう言っていた。それから集まってきた仲間と大島さんを囲んで夜遅くまで酒を飲みながら、昔話やバカ話をした。夜中になっていよいよ帰るとき、僕は大島さんと強く握手をした。いつもそんなことはしないけれど、そうしないと泣きそうだった。すると大島さんが「高崎にひとつ教え忘れたことがあった」と真剣な顔になった。「なんですか」と少し構えて僕が聞くと、ニヤッと笑って「ギンザ♡」と言った。みんな笑った。
 あれから数日たってふと思った。「カッコイイ」にあんな素敵なディレクションがあったように、もしかしたら「ギンザ♡」にも僕の生き方に対する大島さんのディレクションがあるんじゃないか。それはきっと僕に足りないものだ。大島さんはそれを僕に最短距離で教えたんだ。それに気づいたとき、また会いたくなった。「やっと気づいたか、お前そういう鈍いとこあるよなあw」。そんな声が聞こえる。大島さん、ありがとう。見ててね。
「高崎卓馬のCM温故知新」 CM INDEX 2024年8月号掲載