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TOP >  インタビュー・コラム >  高崎卓馬のCM温故知新 >  vol.131 日常にある、砂金たち。

vol.131 日常にある、砂金たち。


武田薬品工業(当時)/アリナミン「おつかれさまです。2008年」篇
2008年4月オンエア開始
一倉宏氏が作詞した斉藤和義の『おつかれさまの国』をBGMに、いたわり合う人々を映し「今日も『おつかれさま』が聞こえる」「そのひとの疲れに『お』をつけて、『さま』までつけて』といった語りを重ねた。

【主な制作スタッフ】
広告会社:アサツーディ・ケイ 制作会社:エージー
CD:宮本憲男/一倉宏
企画:中島和哉/土肥龍介/右高正也/長谷ナオ
コピー:一倉宏
プロデューサー:杉山一義/権瓶崇
演出:市川準 撮影:河津太郎
照明:中野創平 美術:山口修
音楽制作会社:ビクターエンタテインメント
ナレーター:長塚圭史
 「そのひとの疲れに『お』をつけて、『さま』までつけて」というナレーションに静かに胸をうたれる「おつかれさまです。アリナミン。」というタケダのアリナミンのCMがあった。斉藤和義の歌がとても新鮮で、その歌のおかげで日常の並ぶ映像が、その日常さのゆえに逆になんだかとてもエモい風景に見えてくる。こんな上等な表現が少し前にあった。コピーライターの一倉宏さんの仕事は、僕にはなかなか真似のできない方法論と精度で、見直すたびにふへ〜という気持ちになる。一倉さんは今年、TCC(東京コピーライターズクラブ)のホール・オブ・フェイムに選ばれた。いわゆる殿堂入りで、その功績をまとめた展示で一倉さんの主な仕事たちを浴びることができる。
 広告はコミュニケーション・デザインという言葉があらわれた頃から、ゲームのルールを発明することに夢中になった。それは表現の精度を少し疎かにしてでも、新しいこと、或いは新しく見えることのほうに重心を置かせた。実際、新しさは表現の側から見るととても魅力的な要素だけれど、それまではどちらかというと「まだこんな手があったか」を探す探究の結果でしか手に入らないものだったのに、コミュニケーション・デザインという言葉がトンチ的なものに変えてしまったところがある。料理の腕を競っていたはずなのに、皿やお店の立地、あるいは「食べないという料理だ」ということで勝負するみたいな。当時はわからなかったが、今振り返るとこの頃から、広告が文化というものから離れていったのかもしれない。それから時間がたってデジタルという土地の地盤が固まった今、それが一周し、言語としての映像をつかいこなすCMの力が必要とされているようにも思う。アリナミンのようなCMに強さを感じる。そして当時以上に今、このCMのもつ精度と品による伝達力の深さに感じ入る。
 発見はCMを強くする。ひとを新しい気持ちにさせる。「おつかれさま」という言葉の不思議さ。それを解体することで現れる美しさ。そしてその時代にやることの意味。そういうものをいっぺんに連れてくる。こういう日常のなかにある砂金を塊で見つけてしまう一倉さんのスキルには本当にただただ脱帽するしかない。ホール・オブ・フェイム展、ぜひみなさん視点と精度を浴びに行ってみてください。元気でます。
▶『一倉宏のコピー100TEN』展(東京コピーライターズクラブ主催)
 会期:7月20日(土) まで11時〜18時(最終日14時まで)・入場無料
 会場:ギャラリー5610(港区南青山5ー6ー10 5610番館)
「高崎卓馬のCM温故知新」 CM INDEX 2024年7月号掲載