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vol.122 もういちど、映像で発想する場所へ


マツダ/デミオ「風船」篇
1996年8月オンエア開始
小さく映された『デミオ』から飛び出した巨大な風船がバスケットボール選手のスコッティ・ピッペンの顔になり、「Keyword,Small and Big」と語る内容。「小さく見えて大きく乗れる」というメッセージを伝えた。

【主な制作スタッフ】
広告会社:博報堂 制作会社:東北新社
CD:大谷研一 企画:山口尚久
コピー:植村潤吉 プロデューサー:奥田英二
演出:石井克人 撮影:John LeBlanc
キャスティング:中村知恭
 このCMの監督の石井克人さんと僕はそれほど接点がなかった。先輩がよく仕事をしていたからすこし遠慮をしたのかもしれない。美大っぽい感性によるものをどうやったら自分が作れるかまったく見当がつかなかったからかもしれない。この頃の石井さんは、三木俊一郎さん、伊志嶺一さんたちとセンスの塊のような仕事を次々にやっていて、ついにはグラスホッパーというチームまでつくって、同じタイトルの短編映像が入ったDVDマガジンを定期的に発行して、タランティーノの映画のアニメを担当して、映像という道具を徹底的に使い倒していてとにかくすべてが最先端でめちゃくちゃ楽しそうだった。その輪はとても眩しかった。
 彼らのような「映像的な発想」をもった才能は今もたくさん広告の世界やその近くにいる。カメラも編集も手軽になって、プロのような映像をみんなが作れるようになって、才能は昔よりはるかに見つけやすくなっている。けれどそれをちゃんと今のCMは活かせているだろうか。あの頃より窮屈になった広告は、承認のとれた企画のまま仕上がることしか許さなくなって、その伸び代を自ら捨てていないだろうか。「映像的な発想」は皮膚感覚に近いところにある。センスは言葉で説明できるものではない。言葉にならないものを認め、それに期待する余裕が必要だ。なんかいい。なんか気になる。なんか忘れられない。そういうものは企画ではなく演出のなかから生まれる方が多い。理屈で心は動かない。見たことのないものが見たい。そう思う気持ちを広告は忘れかけていないだろうか。CMを見ていると何か新しいものに出会えるかもしれない。センスとは何かを教えてくれるかもしれない。そんな期待を世の中がもっていてくれたら、広告は絶対に機能する。そしてそこにまた才能が集まる。そういうスパイラルを作ることを考えていかないとまずい気がする。競合とのシェア争いよりもマーケット全体が拡張することにこそカロリーを使うべきではないだろうか。
 広告を作るとき、広告の価値をあげるため、という気持ちを全員が数パーセントでももてばそれはできると思うんだけどなあ。「クリエイティブの税金」みたいなものだ。広告という土地が痩せてしまったら、同じ表現でも効果がでなくなってしまうから、しっかりみんなで税金をおさめましょう。
「高崎卓馬のCM温故知新」 CM INDEX 2023年8月号掲載