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TOP >  インタビュー・コラム >  高崎卓馬のCM温故知新 >  vol.113 今って右脳の時代なんでしょうか。

vol.113 今って右脳の時代なんでしょうか。


illustration Takuma Takasaki

ホテル聚楽/「飯坂ホテル聚楽・大改装」篇
1983年オンエア開始
楽しげに走りだす人々に続けてマリリン・モンローを思わせる髪型やメイクをした外国人女性が映され、そこに「♪あ〜そびきれない ホテルは聚楽」という歌がかかる。最後は彼女が「聚楽よ〜ん」と呼びかける内容だ。

【主な制作スタッフ】
広告会社:明治廣告社
 大学生たちと話していると、テレビを持っていない、見ていないという人がもう普通になってきていることを肌で感じる。でも時々「テレビCMは見ていますよ」という言葉に出会って、「ん?」となる。少し話を掘り下げてみると“テレビに出ていそうな人が出ているCM”のことをそう言っているのだと気がつく。芸人さんとか、アイドルとかが出ていて、聞いたことのあるブランドや企業のものとネットで出会うと、それを“テレビCM”と思うのだという。なるほど。じゃあ(意地悪な質問で)あの俳優さんが出ているタクシーでやたら見るあれは? と聞くと、「あれはテレビCMではない」と言う。とても面白い現象だ。
 考えると今まで僕らはひとつのCM素材をテレビやデジタルやサイネージを組み合わせて展開してきた。どこか中心にテレビCMがあって、それを機能させるために複合的にブランドや商品にあわせてメディアのプランも考えてきた。でも、テレビで流したものを他でも、というその考え方がそもそももう古いということなんだろう。もはやそういう順番は成立していないのだ。この状況が進むと、いったい何が起きるのだろう。ちょっとドキドキする。テレビCM、ウェブCMって呼ぶこと自体がもうズレてるんだろう。メディアと表現の関係がこんなに変わってるのに、まだ今までの「線」のなかに広告業界、とくにクリエイティブはいる気もする。効率をあげてきた仕組みや手法はそんなにたやすく変えられないものだけれど、そうも言っていられない事態だ。
 なんて言いながら、マリリン・モンローのそっくりさんが「聚楽よ〜ん♡」とカメラに向かって呼びかけるホテル聚楽のCMが何十年たっても頭にこびりついている現実もある。特に好きという訳ではなかったけれど、なんだか忘れられないものだ。
 何十年たってもネタとして楽しめるもの。むしろ今のようなメディアの状況だと、どのデバイスで見ようが一定の破壊力を持ったものが強いのかもしれない。それは右脳的でシンプルで繰り返しに強いもの。いろんなコミュニティーの人たちが共通の話題にしやすいもの。
 あれ?これってもともと強いテレビCMをつくるために僕らが先輩から叩き込まれたことだ。もしかすると一周まわって今、そういう状況にいるのかもしれぬ。ひとつ大きな問題がある。「聚楽よ〜ん♡」を僕は絶対に思いつけない。これでいけると確信を持つ術をひとつも持っていない。怖い時代になってしまった。
「高崎卓馬のCM温故知新」 CM INDEX 2022年9月号掲載