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vol.102 渇きをエネルギーにする世代がくる


illustration Takuma Takasaki

ジェーシービー/JCBギフトカード/「オフィス」篇 
1994年オンエア開始
オフィスで会社員役の佐藤浩市が「それは先生のなんなりとお好きなものを」「どちらのデパートでも使えるみたいですから」などと電話をしながら同僚役の河合美智子に視線を送り、こっそり手を振り合う姿を描いた。

【主な制作スタッフ】
広告会社:電通
制作会社:マザース
CD:迫田英行
企画:山本一樹/伊藤公一/有利英明
プロデューサー:金成真実子/八島秀二
演出:関谷宗介 撮影:清家正信 照明:平野和義
 コロナ禍の影響で仕事の大半がリモートになった。1年たってさらに半年たってそれが日常になりつつある。肌で感じる情報量が激減し、デジタル化した複製可能な情報に満足できなくて心のどこかが渇いている。ふと去年入社した若者たちのことが気になった。新入社員は研修があるから、オンライン化したとはいえつながりがある。そのまま2年目になった社員たちは研修を終え、リアルなつながりがないまま、それぞれのチームに入っていく。会社に入った実感も持てないんじゃないか。この仕事のわけのわからない熱量を感じるチャンスもほぼないんじゃないかな。そんなことを考えて、2年目の社員を中心に個人的なCMの塾のようなものをはじめた。オンラインで課題のコンテを直したり、リアルで昔のノートを見せてあげたりして。やってみるとみんなリアルが不足して、たしかに渇いている。でもその渇きが独特のエネルギーになっていて吸収しようとする力がすごかった。こういう渇きを経験している世代はのちに面白い仕事をする世代になる気がする。そんな彼らに先輩たちの作品集をシェアした。そしてそのなかでそれぞれが気になるものを選び、そこにある回路を盗んで企画する「換骨奪胎」の回をやってみた。彼らの感性のフィルターを通すと過去の名作もまた違って見えるから不思議だ。そのなかのひとりが、このJCBのCMを選んできた。あらためて「換骨奪胎」するためにじっくり見るといろんなことに気がつく。オフィスでの秘めたやりとりのその芽が生まれた瞬間。佐藤浩市さんの電話の相手がどうやら「先生」と呼ばれる人であること。回路としては「商品のことを言えば言うほど面白くなる」「無関係な設定もの」なのだが、そこは関谷マジック。見事な距離で商品と人の関係が発生している。
 このCMは人間の関係性を見せながら、絵のなかにはないものをたくさん描いている。私たちはそれを感知して、豊かな気持ちになっている。よく登場人物の背景といった設定資料を見るが、そうすればこういうCMができあがるとは全く思わない。なんなんだ。簡単にはまねできないこの感じ。彼らのためにはじめたことだけれど、彼らの感性に触れて欠けていた刺激をもらったのは自分のほうだった。彼らとわいわい雑談しているときに、自分の渇きが癒されていくのがよくわかった。新しい時代がすぐそこにいる。
CM INDEX 2021年9月号掲載