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BRAND OF THE YEAR 2024・特別対談 福部明浩氏(catch)


『BRAND OF THE YEAR 2024』では、キリンビール『晴れ風』や大塚製薬『カロリーメイト』、日本マクドナルド『三角チョコパイ』といった数々のヒットCMを手掛けるcatchの福部明浩氏を迎え、CM総合研究所 代表 関根心太郎との特別対談を実施。時代や人々の心の動きを捉え、共感を集める広告作りについてトークを展開した。
(開催日:2024年12月17日)
【 CM INDEX 2025年1月号に掲載された記事をご紹介します。】
『BRAND OF THE YEAR 2024』についてはこちら

株式会社catch
クリエイティブディレクター/コピーライター
福部明浩氏

Profile:京都大学工学部卒。1998年株式会社博報堂入社。2013年株式会社catchを設立。主な仕事にキリンビール『晴れ風』『淡麗グリーンラベル』、キリンビバレッジ『午後の紅茶』、大塚製薬『カロリーメイト』『ボディメンテ』、日本マクドナルド『三角チョコパイ』、クラシエ『いち髪』、アキタフーズ『きよら』など。2024年度CMヒットメーカーランキング クリエイティブディレクター部門1位(CM総合研究所)、ADC賞、テレビ広告電通賞、ACCグランプリ、TCCグランプリ、ギャラクシー賞をはじめ国内外で受賞多数。著作に絵本『いちにちおもちゃ』『ねこホテル』など

ウソのないメッセージが人の心を動かす

関根 過去20年間のCM好感度調査を振り返ると、CM好感要因の「企業姿勢にウソがない」のスコアが伸びています。この結果をどうお考えでしょうか。
福部 震災やコロナ禍を経て、ネットニュースやSNSの情報は鵜呑みにせず、半分疑って見るようになりました。情報への不信感があるからこそ、信頼できるメッセージに対しては敏感に反応するのかもしれません。
関根 日頃のお仕事の中で、「企業姿勢を描くCMを作りたい」というご依頼は増えていますか。
福部 キリンビール『晴れ風』の場合は、「『ビールを飲んでちょっと社会に貢献できるっていいよね』という気持ちを作れないか」というご相談が最初にありました。素晴らしいと思う一方、SDGsのような見え方は避けたいと思ったんですね。あまり大上段に構えず、ビールを飲むうれしい口実がひとつ増えるくらいの感覚で、何かができたらいい。キリンビールの皆さんとそんなお話をする中で、コミュニケーションの方向性が定まっていきました。
関根 日本の風物詩の保全・継承活動を支援する『晴れ風ACTION』を伝えるCMが好評でした。
福部 この取り組みを象徴するのが「ビール飲んでんじゃないの、桜咲かせてんの」という内村光良さんのセリフでした。ビールと縁の深い桜と花火をテーマにすることで、“ビールの恩返し”というウソのない思いが視聴者の皆さんに伝わった気がします。
関根「企業姿勢にウソがない」で、本年度に最も多く得票した企業は日本マクドナルドでした。福部さんが担当された「マックは、ホームシックにすこし効く。」をコピーとした企業CMについてお聞かせください。
福部 上京したばかりの女性が不慣れな東京でマクドナルドを訪れ、地元と同じバーガーの味やポテトのにおいに安心するというCMです。海外の見知らぬ街でよく分からないレストランに行くよりも、マックに入ってほっとすることってありますよね。そうした多くの方に共通する原体験のようなものを描くことで、リアルな物語として共感いただけたように思います。「マクドは」で始まる関西弁のコピーも作って、地域ごとに流し分けたことも良かったのかもしれません。

身近な体験と関連付け
メッセージと生活者の心の距離を近づける

関根 身近なできごとや体験と関連づけることで、メッセージと生活者の心の距離が近くなりますね。
福部 企業が言いたいことだけにフォーカスするのではなく「それは分かるな」と思えるポイントを探ることが大切だと。そういう要素がないとウソっぽいとすら思われず、自分自身に“関係ない”とスルーされてしまいます。
関根 共感性の高いCMを作るために意識されていることをお聞かせください。
福部 グループインタビューなどでターゲットを知ることは欠かせないですし、広告業界の人は架空のストーリーを作るのが得意なので、自分に都合のいい情報だけで企画しないよう気をつけています。それから、僕はクライアントに対してかなり口が悪いんです(笑)。そこでウソをついてしまうと絶対にうまくいかないので、日頃から本音で話し合える関係性を大切にしています。
関根 CM好感要因の「ユーモラス」が減少傾向にあることについては、どうお考えでしょうか。
福部 スマホの普及やTikTokの日本上陸(2017年)などの影響で、面白い動画の“栄養成分”がSNSのコンテンツで満たされているのかもしれません。短尺の縦型ショートドラマも勢いがありますし。広告だけでなくあらゆるジャンルの動画が変化していることを実感します。
関根 一方、CM好感度調査のアンケート用紙に最も多く書かれてくる言葉はこの20年間変わることがなく「おもしろい」というキーワードなんです。
福部 誰かを傷つけるツッコミが笑えなくなったように、時代とともに「おもしろい」の基準が変わってきているのだと思います。特に若い人は何を笑っていいか、常に周囲に配慮している気がします。
関根 本年度は日清食品『チキンラーメン』を筆頭にユーモラスなCMがCM好感度の上位に並んでいます。
福部 自虐的なユーモアが目立ちますね。大半の広告主は『○○“で”いい』はNGで、『○○“が”いい』を良しとするんです。でも『Uber Eats』は「Uber Eats で、いーんじゃない?」と振り切っている。『オープンハウス』は自社のロゴを怪獣が踏みつけていますし、面白がることが許される範囲って、意外と狭いのかもしれません。
関根 カンヌライオンズではパーパス疲れなのか、ユーモアが注目されていると聞きました。
福部 クリエイティブディレクターの古川裕也さんが書かれたカンヌのレポートを読んだのですが「Humour」や「Humanity」に共通する「hum」という接頭辞は、ラテン語で「土・大地」という意味があるそうです。それを知って、ユーモアは人間に欠かせないものなんだとあらためて思いました。その意味でも、晴れ風のCMはブランド認知や社会活動だけでなく、“人間くささ”を描いたことが良かった気がします。

ユーモアは人間に欠かせないもの
“人間くささ”の描き方が今後のヒント

関根 キャストが自然体で語る言葉やリラックスした表情が心地よく、これもある種の“おもしろい”だと思います。
福部 4人に本物のビールを飲んでいただきながら撮影したことで、ご本人でしか言えないセリフやエピソードを引き出すことができました。複雑な企画をするよりも、誰かがビールを飲みながら楽しそうにおしゃべりをするだけで商品が魅力的に見えるんです。こうした描き方が今後の広告作りのヒントになるかもしれません。
関根 ウソのないメッセージが多くの生活者の共感につながったのですね。CMの役割として商品を売ることに加え、人の心を動かすこと、そしてブランドの“らしさ”を醸成していくことが大切だとあらためて考えさせられました。

最新のCM好感度データをもとに、CMの動向やヒットの要因を分析してお伝えします。
現状把握や今後のCM制作に役立つヒントを提供し、貴社の広告展開をサポートいたします。