〈CMトレンドに学ぶ 生活者の心の捉え方〉心を捉える企業広告の最適解
2024年7月度・日清紡ホールディングスに見る 企業CMの成功ポイント
急速に変化する現代、どのようなCMが生活者の心を動かしているのか。
本コーナーではCM総合研究所のさまざまなデータからCM動向を深掘りし、生活者の心の捉え方を探っていく。今回は7月度に作品別 No.1に輝いた日清紡ホールディングスを例に企業CMのヒット要因を検証する。
本コーナーではCM総合研究所のさまざまなデータからCM動向を深掘りし、生活者の心の捉え方を探っていく。今回は7月度に作品別 No.1に輝いた日清紡ホールディングスを例に企業CMのヒット要因を検証する。
【 CM INDEX 2024年9月号に掲載された記事をご紹介します。】
BtoB企業のCMが存在感を増す中
日清紡ホールディングスが初のトップ5入り
近年、BtoB企業のCMが存在感を増している。企業の認知度向上や事業紹介、リクルーティングなどを目的としたものが多いが、多くの視聴者にとっては関与度が低いためCM好感度の上位に入るのは容易ではない。そうした中で、ネコが防波堤の上で歌う日清紡ホールディングスのCMがヒットし、7月度に同社初の総合トップ5入りを果たした(商品・サービス別)。BtoB企業の知名度やイメージの向上を目的としたCMで過去にトップ5入りを果たした企業はイシダ(2023年1月度)、AGC(2021年5月度)、インテル(2007年7月度ほか)などがあるが、数は少ない。エレクトロニクス、ブレーキ、精密機器、化学品、繊維と幅広い事業領域を手掛ける日清紡ホールディングスは事業の紹介ではなく企業名の認知に特化したCMで好調を維持している。継続的なオンエアを開始した2009年以降のCMを振り返ると、同年は森で暑さに耐えかねて自らの毛を刈るクマに少女が出会うストーリーで、童謡『森のくまさん』をモチーフに地球温暖化防止への貢献を伝えた。2012年には犬と人間が二人羽織で登場する「ドッグシアター」シリーズをスタートし、放送回数、CM好感度ともに伸長。2匹の犬がキーボードやリコーダーを演奏しながら「♪日清紡 名前は知ってるけど〜」「♪日清紡 何をやってるかは知らない〜」と歌うCMが話題となった。2019年に開始した「クマーシャル」シリーズは木の棒を引き抜こうと奮闘する実際のマレーグマの映像と「♪日清紡 これはぬけないぼー」などとアレンジを加えたCMソングで展開した。2020年はテレビCMからデジタル広告にシフトするも、翌年にはCMを再開。現在展開中の「歌おう! ニッシンボー」シリーズは2022年に開始したもので、ウマやカワウソ、クオッカなどCGで再現されたリアルな動物たちがCMソングを歌う姿をコミカルに描き、大きな注目を集めている(図表1)。
ワンメッセージで訴求ポイントを絞り
インパクトを強め記憶に残す
「ドッグシアター」シリーズは成功を収めたが、作品ごとに確認するとCM好感度に高低が見られる。犬の会話やセリフを通して事業を紹介するCMや、タレントがCMソングを歌う作品は振るわず、犬のみが登場して冒頭からCMソングを歌うCMが高いスコアを記録。同様に訴求ポイントを社名認知に絞り、動物がCMソングを歌う姿にフォーカスした現在のシリーズは、効率の良さが光っている。最新作ではネコたちが一列に並び「♪日清紡の歌を 今日も歌っています」「♪歌うのやめたらすぐに」「♪忘れる」「♪から」と歌いつなぐ様子をユーモラスかつチャーミングに描いた。最後のフレーズが調子外れになるなどアクセントを効かせたクリエイティブで、幅広い世代から支持を獲得(図表2)。同社の本音を思わせる歌詞に、モニターからは「ニッシンボウのことを忘れないように歌っているという設定がおもしろい」といったコメントも寄せられた。その他「毎回新しいCMがたのしみ」など、親しみや期待感とともにCMが受容されていることが分かる(図表3)。CM好感度が高い企業広告は訴求ポイントをひとつに絞り込んでいることが共通点といえる。加えてシリーズ化することで「あの企業のCMだ」と記憶に残りやすくなり、メッセージの伝達度が高まる。クボタは長澤まさみを起用し「朝、目が覚めると○○だった」という彼女の語りで始まるシリーズを展開。タイやスペインなど作品ごとに舞台を変えながら、それぞれ農業や水問題などひとつのテーマとそれに対する同社の技術や貢献を伝え、好評価を得ている。広瀬すず起用と「♪素材の会社はAGC」というCMソングで展開したAGC、川口春奈が『港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ』の替え歌で社名をアピールするニデックなど、社名認知に軸足を置いたCMも話題となった。企業広告はともすると情報過多になったり、似通った表現になったりしやすく、膨大な数のCMの中で埋没する可能性も少なくない。企業広告だからこそ「ワンメッセージ」でインパクトを強めることが成功のポイントだといえる。
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ご希望のテーマに合わせたレポートをご提供いたします。さまざまな角度からの検証が可能ですので、ぜひお問い合わせください。
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