グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



TOP >  CM INDEX WEB >  Creator Interview 福部明浩氏(株式会社 catch)

Creator Interview 福部明浩氏(株式会社 catch)


時代と商品をつなぐ広告で心を動かす

2024年4月度にCM好感度総合1位となったキリンビール『晴れ風』、目黒蓮と中条あやみ出演のキリンビバレッジ『午後の紅茶』、本年度のTCCグランプリに輝いた大塚製薬『カロリーメイト』など数多くのヒットCMを手掛ける福部明浩氏。これらの話題作の企画意図や、時代の変化を捉え人々の共感を集める広告作りについてお聞きした。
(取材:2024年7月12日)
【 CM INDEX 2024年8月号に掲載された記事をご紹介します。】

株式会社 catch
クリエイティブディレクター/コピーライター
福部明浩氏

京都大学工学部卒。1998年博報堂入社。2013年catchを設立。主な仕事にキリンビール『晴れ風』『淡麗グリーンラベル』、キリンビバレッジ『午後の紅茶』、大塚製薬『カロリーメイト』『ボディメンテ』、日本マクドナルド、クラシエ『いち髪』など。ADC賞、テレビ広告電通賞、ACCグランプリ、TCCグランプリ、ギャラクシー賞をはじめ受賞多数。著作に絵本『いちにちおもちゃ』など。

人と人のつながりを軸に新ビールを訴求

— キリンビールとして17年ぶりの新ビール『晴れ風』が4月度にCM好感度総合1位に輝きました
 『晴れ風』は広告だけでなく商品開発の段階から携わっています。発売前に展開した商品名を隠したプロモーションや、売り上げの一部を日本の風物詩の保全・継承活動に寄付する『晴れ風ACTION』に注目いただくことが多いのですが、ブランドの根幹には「コロナ禍で希薄になった“人と人とのつながり”を取り戻そう」という大きなコンセプトがあります。そもそもビールって、人と人をつなぐ中心にあるものですよね。お花見や花火大会といった季節の風物詩も人が集まるきっかけを作る場だと思います。コロナ禍を経て生活様式や人々の価値観が変化する中、今の世の中にどんなビールをお届けすべきかと考えたときに、人と人がつながることの価値をあらためて伝えたい、ビール市場に新しい風を吹かせたいと思い、これを起点にCMやデジタル、交通広告などさまざまな媒体でプロモーションを展開してきました。 
 CMでは内村光良さん、天海祐希さん、今田美桜さん、目黒蓮さんに本物の商品を飲んでもらい、味わいの感想などをアドリブで語っていただいています。出演者同士が隣に座って会話するのではなく、自然体で話す姿をひとりずつ映すことでより一層リアルな雰囲気が出たように思います。ナレーションとの掛け合いもナチュラルで、ご自身の言葉で話す4人に多くの方が共感してくださったのではないでしょうか。またキャストの皆さんが「よろしくお願いします」「ありがとうございます」などと呼びかけるシーンは視聴者とのつながりを意識したものです。いずれも日常的な言葉ですが、あいさつはコミュニケーションの最小単位でもあります。4人が浴衣姿で登場するCMの「どうぞ末永く、ご贔屓に」という天海さんのナレーションには「ずっと仲良くしてね」といったブランドの思いを込めました。もちろんお酒の楽しみ方は人それぞれですが、晴れ風の広告を通してコミュニケーションの潤滑油となるビールの役割にもう一度光が当たり、ビール業界全体が活性化すればと思っています。
 一方2018年から担当している『淡麗グリーンラベル』の「GREEN JUKEBOX」シリーズは、ひとりで楽しむことの多い糖質オフの商品ということもあって、他者とのつながりというよりも個人的な感覚を描くよう意識しています。今年のCMでは広大な草原を走る列車で多部未華子さんがMrs.GREEN APPLEの大森元貴さんの弾き語る『青と夏』と商品を楽しむ姿を通して、日常からの逃避行のような心地よさを表現しました。
キリンビール/晴れ風
「ご贔屓に」篇/2024年7月15日オンエア開始
キリンビールとして17年ぶりの新ビール『晴れ風』のCMで、内村光良、天海祐希、目黒蓮、今田美桜が出演。「どうぞ末永く、ご贔屓に」といった天海の語りのもと、浴衣姿の4人がビールを満足げに飲む様子などを映した。

紅茶の原点に立ち返りブランディングを刷新

— 目黒蓮さん、中条あやみさん出演のキリンビバレッジ『午後の紅茶』のCMが好評です
 『午後の紅茶』は一昨年の冬から担当しており、広告の企画だけでなくブランディング全般を見直す作業から参加させていただきました。午後の紅茶は発売から35年以上の歴史を持つロングセラー商品で、紅茶のコミュニケーションを展開すれば大半の人が“午後ティー”を連想してくださいます。ですので、紅茶の原点に立ち返ることに意味があると考え、目黒蓮さんが世界有数の紅茶の産地・スリランカを訪れるCMを今年の春から展開しました。異国情緒あふれる世界観のもと、目黒さんが茶畑の中を走る“紅茶鉄道”に乗ったり茶摘みに挑戦したりする様子をドキュメンタリー調に描いています。
 実際に現地を訪れて分かったのですが、CMに登場する茶畑はかなりの急斜面で、こうした標高差によって茶葉の味わいにバリエーションが生まれるそうです。“ご馳走”の語源は「走り回って集めてきたもの」といいますが、まさにその言葉がぴったりで、こんなに遠い国で摘まれた茶葉が大勢の人の丁寧な手作業を経て日本に届いているんだという驚きを「紅茶の国からの、おくりもの。」というキーワードに込めました。さらに目黒さんの前を紅茶鉄道が通り過ぎると舞台が日本に切り替わるシーンを描くことで、紅茶の産地と日常とのつながりを無理なくブリッジできたと感じています。
 このほか6月からは目黒さんと中条あやみさんがサーフィンの後に氷の入ったグラスで商品を味わうCMも放送しました。「アイスティー」という単語が流行れば緑茶やウーロン茶は選択肢から外れますので、夏の紅茶をアピールする上で「アイスティー」は最強のコピーなんです(笑)。また、おふたりに加えて制服姿の中高生が友人たちとはしゃぎながらペットボトルの商品を飲むCMもオンエアしています。本作はスリランカを舞台にしたCMと同様に、目黒さん主演のドラマなども手掛けるジョンウンヒ監督に演出をお願いしました。Official髭男dismの『BーSide Blues』をBGMに、それぞれが浜辺や学校などで過ごす何げないひとときをリアルかつ情感豊かに表現できたと思っています。  
 なお商品発売時から現地の茶葉を使用しているキリンビバレッジさんは、持続可能な紅茶葉農園作りや農園の未来を担う子どもたちの教育支援活動を長年展開されるなど、スリランカとの関係性を非常に大切にされていらっしゃいます。広告でこうした背景は描いていませんが、誠実な企業姿勢や制作チームの熱量は、思いのほか世の中に伝わっているのではないでしょうか。
キリンビバレッジ/午後の紅茶
「夏の午後、つづく」篇/2024年7月20日オンエア開始
Official髭男dismの『BーSide Blues』をBGMに展開。浜辺や学校などで目黒蓮や中条あやみ、制服姿の生徒たちが友人とはしゃいだり商品を飲んだりする内容で、「夏の午後、つづく。」というコピーで締めくくった。
— 「光も、影も、栄養にして。」のコピーがTCCグランプリに輝いたカロリーメイトのCMについて
 『カロリーメイト』の受験生応援CMは2023年放送の作品で10作目となりました。前作までとの大きな違いは、美術大学を目指す受験生を主人公とした点です。というのも最近は受験システムや大学の在り方が多様化していますよね。ですので従来の受験のイメージから脱却し、若い世代の皆さんに「道はひとつじゃないよ」といったメッセージをお伝えしたいと考えました。繰り返し流れるCMは視聴者に無意識のうちに影響を及ぼしますので、少しでも気持ちが軽くなっていただければと思ったんです。そこで本作は「光と影」をテーマに、美大受験生役の伊東蒼さんが理系学部を目指す友人役の野内まるさんと励まし合いながらひたむきに努力を続ける姿を描きました。BGMには昨年の受験生が幼い頃に親しんだであろう『Let’s go! スマイルプリキュア!』のピアノアレンジを使用しています。
 本シリーズを10年以上作り続けて感じるのは、意外なほど時代は速く動いているということ。「受験」という視点で定点観測していると視聴者の共感ポイントや、その時代ならではの温度感といった微妙な変化が見えてくるんです。一昨年の秋に放送したCMはコロナ禍で3年間の学校生活を過ごしてきた受験生のリアルな姿をスマホ視点で描いたものですが、今振り返るとこの2年で時代の空気が大きく変わったことが分かります。
大塚製薬/カロリーメイト
「光も影も」篇/2023年11月18日オンエア開始
「光も、影も、栄養にして。」をコピーに、美大を目指す受験生(伊東蒼)と理系の学部を志望する友人(野内まる)が励まし合いながら受験に挑むストーリー。『Let’s go! スマイルプリキュア!』のアレンジ曲をBGMに展開した。
— 広告作りにおいて大切にしていることとは
 ここ数年は広告の企画をする前に、できるだけその商品のターゲットやユーザーの声を聞くよう意識しています。特に中高生と直接話してみると友人との距離感やCMの共感ポイントが我々の感覚とは異なっていることに驚かされます。この予想外の部分に自分では思いつかない宝物が埋まっていることが多いので、若者向けの商品に限らずグループインタビューなどの情報収集は欠かせません。例えば受験だけでなく、働き方や頑張り方も時代によって変化していますよね。 「24時間戦えますか」と歌う『リゲイン』のCMが流行した平成初期は腰に手を当て、上を向いて栄養ドリンクを飲む広告が多かったと思います。一方、私が担当する『カロリーメイト リキッド』のCMには自宅でリモートワークや育児に励む人物が登場します。現代人の頑張り方はゆるっとしていますので、仕事の合間に愛猫と戯れたり視線を下げたままストローで商品を飲んだりする姿を描いています。
 また、最近は体調に合わせて仕事をする時代です。なかでも若い世代が体調を整えるとしたら、その目的は仕事以外である方がリアリティーがあるはず。昨年末から放送した大塚製薬の『ボディメンテ&ボディメンテゼリー』のCMでは、アイドルグループ・NCT 127のコンサート当日を体調管理のゴール“THE DAY.”に設定し、推し活をする女性がその日のために体調管理に励む様子を共感性の高いディテールとともに表現しました。
 広告制作という仕事は、時代と商品をつなぐことだと思っています。時代がどのように動いているかを理解し、その変化を商品と結びつけることで、ようやく人の心に響くコミュニケーションが生まれるのではないでしょうか。その上で出演者の新たな魅力に光を当て、視聴者の方々がその作品を見た時間が無駄ではなかったと思えるような広告を作っていけたらいいですね。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。