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広告主インタビュー 日清紡ホールディングス株式会社【2023年度 CM好感度 獲得効率No.1】


クリエイターへの信頼がヒットを生む

フルCGの動物が歌うCMシリーズを展開する日清紡ホールディングスが2年連続のCM好感度 獲得効率トップとなった。同社がCMを放送する狙いや表現の工夫などについて、喜田清弘氏に語っていただいた。
(取材:2024年5月14日)
【 CM INDEX 2024年6月号に掲載された記事をご紹介します。】

日清紡ホールディングス株式会社
コーポレートコミュニケーショングループ長
喜田清弘氏

日清紡績株式会社(現 日清紡ホールディングス株式会社)入社。メカトロニクス事業本部営業部、総務本部総務部などを経て、2003年秘書部広報課へ異動。22年よりコーポレートコミュニケーショングループ長。
代表的なCM
歌おう!ニッシンボー「ハシビロコウ」篇(2023年7月27日オンエア開始)
うま、カワウソ、クオッカに続いてオンエアされた「歌おう!ニッシンボー」シリーズの第4弾。ロック調のイントロに合わせてハシビロコウがマイクに向かい「♪ニッシンボ〜」とひと言だけシャウトする姿をフルCGで描いた。今年4月開始の最新作にはゴマフアザラシが登場した。

社内の反応と若者の反響にはギャップ
クリエイターの感性を信じることが重要

— 2年連続のCM好感度 獲得効率No.1に輝きました。2023年度のCM展開の工夫点について
 「2年連続を狙いたい」とお話したかもしれませんが、本当に取れるとは思っておりませんでしたのでうれしいです。ひとえにクリエイターの皆さまのおかげですね。「♪ニッシンボー 名前は知ってるけど〜」というCMソングを使いはじめた2012年の「ドッグシアター」シリーズ以来、我々は中治信博さん(ワトソン・クリック)や古川雅之さん(電通)をはじめとしたクリエイターの皆さまを信頼し、クリエイティブに口を挟まないようにしています。この制作スタイルが功を奏したのではないでしょうか。
 2023年は「歌おう!ニッシンボー」シリーズの2篇を展開し、CMソングはオリジナルのメロディーではなく、いずれもアレンジを加えました。「クオッカ」篇は昭和アイドルのような曲調で2匹のクオッカが歌い踊り、「ハシビロコウ」篇は高揚感のあるイントロに続いてハシビロコウが「♪ニッシンボー」とひと言シャウトする内容です。
 こういうCMが作れるのは、かつて広告 担当役員だった現・社長の村上(雅洋氏)が「若い方に向けて制作しているのだから、役員たちに受け入れられなくてもいい」と現場の判断に任せてくれるからです。そのため社内では完成品を確認してもらうのみなのです。ひと言だけの「ハシビロコウ」篇を見た役員の多くは驚いた様子ではありました(笑)。我々は2篇のうちどちらか一方にはオリジナルソングを使わないと、歌自体が忘れられてしまうのではないかと思いましたが、クリエイターにはアレンジを加えることで飽きられずに、さらにオリジナルを長持ちさせるいった勝算があるわけです。また我々はかわいらしいクオッカの方が人気が出ると予想していましたが、CM好感度ではハシビロコウの方がポイントが高かったんですね。やはりクリエイターの感性を信じることが重要だといえます。
 これもクリエイターからのアイデアですが、CMを盛り上げる施策として、「ハシビロコウ」篇の放送直前に、モーションキャプチャーの撮影の様子をティザーCMとして展開しました。ティザーは映画などでよくある宣伝手法ですが、CMでは非常に珍しいと思います。元々SNS上で「次の動物は何だろう」と期待する声もありましたので、思い切ってCMとして放送することにしました。SNSではこのティザーから何の動物かを当てるクイズを出題したところ、再生回数は1600万回を数え、多くの方に楽しんでいただけたのではと考えています。
— 貴社の広告活動の狙いとは
 ステークホルダーとのコミュニケーション活動を通して企業価値を高めることが我々のミッションです。CMを展開する目的は企業を認知してもらう、ここなんです。認知してもらい、共感してもらい、信頼してもらう。信頼を得るということはAIDMAでいえば最後の「Action」に該当します。ここに行きつくためには行動変容を促さなければなりませんが、前提として最初の「Attention」、つまり注意・注目が必要になります。このCMはその役割を十分に果たしており、さらに次のステップである「Interest」(興味・関心)まで引いてくれています。

サイトへの誘引にCMが大きく貢献
認知向上やリクルーティングにも効果を発揮

 生活者の手元に届く商品を販売するメーカーであれば、商品そのものが企業認知獲得のツールになり得ますが、BtoB企業である当社の製品は生活者になじみが薄く、なかなかそれも叶いません。そのためCMは認知を獲得し、共感や信頼につなげるきっかけと位置づけています。
 認知を獲得した後に企業理解を深めていただく場として、コーポレートサイトとは別にCMのトーン&マナーと合わせたスペシャルサイトを設け、当社の事業などを分かりやすく紹介しています。このサイトへの誘引はテレビCMの効果が非常に大きいです。CMを流していなかった昨年1、2月の月当たりのアクセス数に対して、「クオッカ」篇を放送した4月と「ハシビロコウ」篇の7月は約5倍に跳ね上がりました。
 サイト内の滞在時間や動画視聴していただくといったエンゲージメント率も75%と高いことから、企業理解を深めていただけていると思います。バナー広告を試行錯誤しながら最適な運用にも尽力してくださっているデジタル担当のスタッフの方々には感謝しかありません。
 2023年の日経企業イメージ調査による認知度は92.0%で、前年比3.3ポイント上がっています。同調査が始まった1988年の認知度は93.8%でしたが、以降ダウントレンドで認知の低下が採用活動に影響するようになりました。そのため2000年前後から製品を絡めた企業広告を新聞や雑誌を中心に展開したものの、なかなか効果が出ない状況が続いたんですね。そこで社名認知に徹した「ドッグシアター」シリーズを2012年に開始したところ、そこから認知度が上昇しはじめました。
 現在、インターンシップでは応募者のうち20%以上がCMをきっかけに応募してくれています。また昨年入社した総合職の新入社員20数人のうち、8割がCMを見た記憶があると答えています。さらにエントリーのきっかけになった社員が6割と、CMがリクルーティングにも一定の貢献をしているといえます。
 先日、一般の方から「CMが面白いので株を買いました」というお手紙も頂戴しました(笑)。本当にその理由だけかは分かりませんが、非常にありがたいことです。

認知の獲得にはテレビCMが有効
目的に応じてメディアを使い分けるべき

— 今後の広告展開についてお聞かせください
 若年層のテレビ視聴時間が減り、スマホなどのデジタルメディアに流れていることは事実ではありますが、認知を獲得するにはテレビが強いと感じています。2020年にテレビCMを一時休止したところ、デジタル広告は従来より若干予算を増やして展開したにもかかわらず、スペシャルサイトへのアクセス数は大幅に下がりました。日清紡をご存じない方、知りたいと思っていない方にデジタル広告を接触させても響かないのかなと。CMで興味、関心を獲得し、デジタルで理解をしてもらうなど、目的に応じて使い分けることが重要と考えています。
 また認知度は95%が分水嶺で、CMを流さなくてもその水準をキープできるようになるまでしばらく続けなければならないと思っています。認知が高まれば、事業内容を紹介するストレートな表現のCMでも生活者の印象に残せるのではないでしょうか。当社は認知度92%で、CMを中止すると忘れられてしまいますから、まだ発展途上といえます。引き続き「歌おう!ニッシンボー」シリーズを軸に認知をさらに高め、当社への共感や信頼へとつなげていきたいと考えています。
写真:長谷川大
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。