グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



TOP >  CM INDEX WEB >  JAC AWARD 2023 ープロデュース力が 世の中を明るくするー 【なかじましんや氏】

JAC AWARD 2023 ープロデュース力が 世の中を明るくするー 【なかじましんや氏】


 一般社団法人 日本アド・コンテンツ制作協会(JAC)主催の『JAC AWARD』は映像文化の発展や人材育成を目的に、制作サイドの見地から表彰を行っている。本特集では審査委員長を務めたなかじましんや氏にJAC AWARD2023の審査の感想や、制作現場の在り方についてお聞きした。
【 CM INDEX 2024年4月号に掲載された記事をご紹介します。】

審査委員長インタビュー
なかじましんや氏氏

なかじましんやオフィス CMディレクター/クリエイティブ・ディレクター
1959年福岡生まれ大阪育ちの江戸っ子。1982年武蔵野美術大学卒業、東北新社入社。代表作にカップヌードル「hungry?」、民放連「違法だよ!あげるくん」、リクルート「AirPAY オダギリジョー」など。カンヌグランプリなど受賞歴多数。武蔵野美術大学で客員教授を務めるなど後進の指導にも力を入れる。
— JAC AWARD 2023の審査を振り返って
 JAC AWARDは業界の才能を発掘し、その若い才能をほめて伸ばし、業界全体を盛り上げていくことを目的にしています。クリエイターやディレクターは広告賞などで評価されることはありますが、評価軸のない裏方にも業界の中でしっかりスポットを当てたいという思いがあります。
 僕がディレクターとしてデビューした80年代はこの業界はチャレンジャブルで、若手や新人でも大きな仕事を任せてもらえていたんですね。極端な話ですけど、2000万円の仕事を新人が担当することになったら、失敗したときのために撮り直し用の2000万円を準備していたと。僕も若手の頃プロデューサーから「中島のために用意しておいた」と聞いたことがありますが、実際に用意されていたかは知りません(笑)。ただ、それだけ若手にチャンスがあったということです。
 時代を経て、現在はクライアントも慎重になっており、新しいことにチャレンジするより確実な結果を求める傾向が強くなっています。するとベテランのディレクターに仕事の依頼が集中し、若手ディレクターにチャンスが回ってこない。このJAC AWARDは、若手が土俵に上がるためのきっかけにもなっているのではないでしょうか。
 また一般的な広告賞では斬新さ、人の心を打つ、広告効果が高いといった審査基準がありますが、JAC AWARDは“人”を見ます。ディレクター部門であれば表現の完成度やクオリティーも大切ですが、その背景にある努力や工夫にフォーカスしていることがひとつの特徴です。
 審査員は業界のトップランナーから応募者に近い世代のJAC AWARDの歴代受賞者まで、幅広い視野で審査ができるよう構成されています。評価のポイントが多様で票が偏らないことも良い傾向で、これまでにJAC AWARDで発掘された才能が活躍していることからも、良い審査ができていると考えています。

2023年12月14日にイメージスタジオ109四谷スタジオにて開催されたJAC AWARD 2023の様子。コロナ禍を経て4年ぶりのリアルイベントとなり、各部門の最終審査やトークセッション、贈賞式、アフターパーティーが行われ、盛り上がりを見せた。

新しいアイデアへのチャレンジと
表現として結実させるアウトプット力

— ディレクター2部門のテーマは「多様性」でした。作品をご覧になっていかがでしたか
 前回の「しあわせ?」というテーマは漠然とした部分もあり、より具体的にするために「多様性」をテーマとしました。善悪がはっきりしているわけではなく、右には右の、左には左の良さがあると認めることですから、切り口は無数にあります。
 現在の広告表現は共感性が重視されるようになり、アイデアに挑戦しているものが少なくなっています。僕が育った時代は他社と似たような表現にしないことや、スキャンダラスなアイデアを大切にしていたので、CMに多様性があったんですね。今回のJACに応募した若者たちも新しいアイデアにチャレンジしていて、どの作品にもパワーを感じました。そのため評価は分かれたのですが、審査員はプロダクションの人間ですから、企画やアイデアだけでなく、最終的な表現として結実させる演出力、アウトプットの力があるかを無意識のうちに評価していたように思います。
 ディレクター部門のグランプリ2作品のうち、博報堂プロダクツの神田さんの作品※1は、化粧をした男性がコートを開いて裸を見せるという大胆な表現でジェンダーの問題を切り取っています。ギリギリのラインを狙いながらも、しっかりとメッセージを伝えていることが評価されました。ハットの髙原さんの作品※2は、ゲイとカミングアウトした若い男性と、ゲイであることを隠している男性を描いているのですが、人物の演出が優れていて、繊細なテーマでありながら無理なく自然に見られるという点はレベルが高いと感じましたね。
 ディレクター個人応募のグランプリはふたりとも東北新社の社員でしたので、私は票を入れることはできなかったのですが、十分評価できると思います。小山さんの作品※3はトイレを主人公に全編CGで制作しており、応募作の多くが実写で人物を演出するものの中で異彩を放っていました。小口さんの作品※4は海に向かって歌う男性を映したもので、お尻で箸を折るなどユーモラスな表現もありつつ、何よりも強いパワーがありました。審査委員長特別賞を受賞したアットアームズのセトタカアキさんの作品はTシャツからもうひとりの自分が出てくるというもので、かつての僕たちが考えていたような自由な発想で、彼の個性が出ていて印象に残りましたね。
 業界に限らずパソコンがあれば誰でも映像を作れるような環境が整っています。プロダクションマネージャーである小口さんが受賞したように、ディレクターだけでなく制作サイドも映像作りに参加するという新しい時代の到来を感じました。
※1.「はみ出しもの」神田蘭子氏(博報堂プロダクツ)
公園で話し合う女装姿の息子と母親に、メイクをした男が「正解なんてないです」などと話しかけ、コートを脱いで裸を見せると「在り方に、正解はない。(※ただし間違いはある)」のコピーが続く。

※2.「認める?」髙原春菜氏(ハット)
「多様性を認める、ってなんだ?」をコピーに、職場でゲイであるとを告白した男性の葛藤や、カミングアウトせず働く男性が描かれ、最後は「ありのままいたいだけ。」のコピーを映した。

※3.「ここだけの話」小山瑛司氏(東北新社)
全篇3DCGで描かれた作品。トイレがフタを開閉させながら、毎日いろいろな人の尻を見ていると語る。「ここだけの話」と切り出し、「みんな、うんこの色は一緒なんですよ。」と明かす内容だ。

※4.「割り切った人」小口勝一氏(東北新社)
海パン、Tシャツ姿の男性が海に向かって「♪こんなもんじゃねえよ」などと力強く歌ったり、尻で割り箸を割ったりする。その様子を弁当を食べながら眺めていた男性が優しくうなずくストーリー。

知るべき情報を届ける放送の重要性
質の高い番組という原点に

— 広告を取り巻くメディア環境について
 インターネットの登場で映像の世界が大きく変わり、家庭で映像を見る装置はテレビだけだったものが、パソコンやスマホでさまざまな映像が楽しめるようになりました。10年ほど前に名だたる企業が15、30秒といった枠ではなく、自由な長さで豊かな表現の広告映像を作るという時代がありましたが、無駄に長いだけものが増えたり、視聴者が2倍速で見たりするなど想定外の視聴スタイルが登場したりと、ネットが広告表現を必ずしも豊かにするものではないと分かりました。
 そうした中で僕自身は民間放送を大切にしたいと思っているんですね。みんなを幸せにするために民間放送は誕生し、ニュースからエンターテインメントまでを無料で届け、その思いに賛同した企業がスポンサーとして番組を提供する形で始まりました。番組はスポンサーの顔で、視聴者は番組を通してスポンサーの在り方を知りますから、そこには「売らんかな」の販売促進に特化したCMではなく、豊かな表現のCMが流れ、視聴者が「ここは一流企業だ」と感じるという時代です。
 テレビが浸透し、誰もがテレビを見るようになると、広告媒体としての価値を高めようと、提供枠以外の時間を広告枠として販売するスポット枠が生まれます。大きな効果がある貴重なその広告枠を企業は競うように買い、テレビは広告媒体として強大になりましたが、見る人を特定でき、効率よく広告を配信できるインターネットの登場に焦ったと思うんです。すると高視聴率の番組のスポットがビジネスとして重要になるので、視聴率を高めることに力を注ぐあまり、結果として番組の均質化、つまり出演者や作りが似通った番組が増えたのではないかと。かつてはスポンサー独自の個性を出すために、視聴率はそれほど高くなくとも誰かに深く愛されるような質の高い番組も少なくなかったはずです。もう一度、原点を振り返るべきではと考えています。
 現在のメディア環境は情報の泥の川で、実はみんなが溺れているんじゃないかと思うんですね。放送の役割はその川に安心して渡れる橋を作ること、情報の渦の中から大事なものを取り出し、子どもからお年寄りまで誰もが安心して見られるコンテンツを提供することだと考えています。放送という大切なインフラを支える企業のコミュニケーションの場としてCMがあり、そのCMが良質で面白いものであれば、結果として企業やブランドの価値が高まっていくはずです。

ブランディングに貢献するCM作り
プロダクションへの期待の高まり

— 広告制作現場に期待することとは
 広告の費用対効果が重視されるようになり、痩せた表現のCMが増えていますが、広告効果だけを目指した表現では企業やブランドのイメージにマイナスを及ぼしかねません。ただクライアントさんも「売らないと」という切羽詰まった状況ですし、広告会社さんもクライアントさんの切実な要望に応えようと必死で、ブランディングが後回しにされがちです。しかし「このCM好きだな」と思ってもらうことを積み重ね、商品や企業の“ご贔屓”になってもらうことは強いブランディング戦略です。そのため広告会社のCDやプランナーの皆さんも最終的にクライアントさんのブランディングにつながるものに仕上げたいと考えていて、企画の段階から豊かな表現を目指せればいいのですが、必ずしもそうではない場合、アウトプットのタイミングでもう一段階クオリティーを上げてくれることを制作会社に期待しています。CDやプランナーと一緒になってクリエイティブを考え、作ってくれるプロデュース力がこれまで以上に求められているんですね。プロデュース力が必要なのはプロデューサーに限らず、例えばディレクターであれば自身の才能を、プロダクションサポート部門であれば働き方をプロデュースすることです。課題を解決するだけではなく、より良いものにしていくプロデュース力を通して、豊かなCMを作り、見る人を幸せにできる。広告に限らず演劇や映画にも幅広く展開し、世の中を明るくできるのではないかと。だからこの仕事は面白いんですね。
 学生運動の頃などは企業は悪者という風潮もありましたが、今の企業は社会に貢献をしていなければ生き残れません。企業の成長は世の中が良くなることにつながるはずで、それを映像のコミュニケーションでサポートできることもプロダクションの仕事の醍醐味です。
 青臭い考えもかもしれませんし、長年お付き合いのあるマツコ・デラックスさんには「あなたはきれいごとばっかり」とよく言われるのですが(笑)、「プロダクションの仕事は面白い」と若い人に伝え続けていくことが、40年以上この仕事をしている僕の使命だと考えています。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。