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スペシャリストに学ぶ ビジネスの質を高めるヒント:「対話マーケティング」時代の本質と勘所


電通やマイクロソフトなどでマーケティングに携わり、世界最大の調査会社であるニールセンの日本代表を務めた福徳俊弘氏が、若手マーケターに向けて『ところで、マーケティングって、なに? 1 Minute Marketer ー 対話マーケティングの時代』を上梓した。同氏に執筆のきっかけや本書を通して伝えたいことをお聞きした。
(取材:2024年3月18日)
【 CM INDEX 2024年4月号に掲載された記事をご紹介します。】

福徳俊弘氏
株式会社TIE(ティー・アイ・イー)
代表

広島出身、東京大学卒。電通メディアプランニング部長の後、オグルヴィ&メイザーを経て、マイクロソフトやスクウェア・エニックスなどの事業会社にてマーケティングに携わり、ニールセンの日本代表。現在はTIE代表、日本マーケティング協会 理事会監事/マイスター。

語る人によって異なる「マーケティング」
本質の共有からスタートすべき

本書を執筆された経緯について
 僕は日本マーケティング協会のマイスターとして10年以上、マスターコースの講師をしてきました。同じマイスターであるトップマーケターの方々と「マーケティングとは」という話になるのですが、それぞれに「市場の創造」「人を動かすこと」「売れ続ける仕組みを作ること」などと言うことが結構違うんですよ。僕もこれまで講義などでマーケティングについてはあれこれと話してきたけれど、「本当のところは何なんだろう?」と素朴な疑問が湧きました。
 あたらめて調べてみても、例えばアメリカ・マーケティング協会のサイトでも何行にもわたって言葉が並んでいて、「結局、なに?」と。マーケティングの第一人者であるコトラーも読み返してみたけれど、僕が一番しっくりきたのはマネジメントの父・ドラッカーの考え方でした。ドラッカーいわく企業の目的は「顧客の創造」で、それを実現するのは「マーケティング」と「イノベーション」であり、マーケティングの理想は「何もしなくても売れる」状態。そのためには企業を主語にした「販売」ではなく、顧客が主語となる「マーケティング」が必要だと。僕は「顧客との対話」による顧客ニーズの理解と、それを解決するベネフィットの開発、そして、その価値を伝えて買ってもらうという一連のマーケティング活動を「マーケティング・ループ」と名付け、それを回し続けることが重要だと考えていました。そしてトップマーケターがそれぞれ「マーケティングとは」という問いの先に答えていたことは、実は「マーケティング・ループ」とその延長線上にある事柄ではないかと気付きました。現状のように市場開発や販促など「マーケティング」という言葉の指す領域が語る人によって異なっては、混乱やロスが生まれやすいと考えるようになりました。

マーケティングの全体像をつかむことで
実務の質が高められる

 また僕がマーケティングをサポートしているいくつかの企業で、若手マーケターの方々と関わる中で感じたこともきっかけになりました。そうした方々はたいてい入社後4、5年ほど地方の支店で営業を務め、その功績が認められて本社に異動になり、マーケティングの本質や全体像をあまり理解しないまま販促やウェブ広告などの特定の部門に配属されていました。優秀な方々なので、マーケティングの全体像から「今、あなたはこの部分を担っているんだよ」という意識づけをするだけでも大きく成長していくでしょうし、マーケティングの本質の理解と実践を掛け合わせていけば、見える景色がどんどん変わるはずだと。そんな人たちの助けになるような本があれば、マーケティングの質を高め、組織としてのレベルアップにつながるのではないかと思い至りました。
 マーケティングに関する本はたくさんありますが、特定の分野に特化した内容でもかなりのボリュームがあってやや取っ付きにくいと感じていました。それでまずはマーケティングの全体像と本質、そして勘所をひと通りつかむことを目的とした本を作りたいと思いました。サブタイトルは昔、アメリカでベストセラーになった『The One Minute anager』からヒントを得ています。ハンドブックのようなコンパクトな本で、僕も本書の執筆に当たっては辞書や参考書のような小難しいものではなく、どれだけシンプルに分かりやすくできるかを大事にしました。

マーケティングの面白さは答えがひとつではないこと

本書を通して伝えたいこととは
 ひとつは今、マーケティングに携わっている人にマーケティングがどれだけの可能性を持った分野なのか気付いてほしい。マーケティング部門は社内での立ち位置が曖昧で、商品開発や営業の意見が通りやすいといった話も聞きますが、あのドラッカーが企業で一番重要だといっている「マーケティング」と「イノベーション」のひとつを担っているのですから、もっと自信を持ってもらいたいです。
 ふたつ目は先ほどお話した通り、顧客から始まる「マーケティング・ループ」を回し続けることが重要だということです。そのための一番の勘所は顧客のインサイトを捉えることで、そこからベネフィットやメッセージを考える。注意すべきは常識や思い込みにとらわれてチャンスを逃してしまうこと。僕もこれまで何度も経験していますから、言うのは簡単だけれど、やはり自由な発想で物事を見ることが大事だと思います。
 3つ目は、マーケティングには世の中を楽しくしたり、大きく変えたりする力があるということです。「パーセプション・チェンジ」のパートで書いたように、ブランドの現在地から理想のゴールに向けて、何をメッセージしてどんな施策を打つかを導き出すプロセスは、恋愛や人生でも同じことがいえます。マーケティングの面白さは答えがひとつではないことです。リスクとリターンのように算定できるものではなく「人のココロ」が相手なので捉えるべきインサイトはいくつもあって、それを解決するためのベネフィット、メッセージも何通りもある。そしてそれにたどり着けるかがマーケティングの面白さであり、難しさです。
 優秀なマーケターやクリエイターはぞれぞれの流儀で違う答えを出して、いろいろなアプローチで成功しています。セオリーにとらわれず、鮮やかな方法で一気にブランドの力を押し上げるような施策やプロモーションに触れるたびに、長年マーケティングに携わっている僕も「そういうやり方があったか」と驚かされます。
 マーケティングは非常にパワフルで面白いものなので、この本を通して多くの人にマーケティングの重要性や可能性、チャレンジをする楽しさを感じてもらえたらと考えています。そして皆さんの力で世の中をどんどん明るくしていってほしいです。

『ところで、マーケティングって、なに?
 1 Minute Marketer ー 対話マーケティングの時代』


著者:トニー・フクトク(福徳俊弘)
イラスト:渡辺リリコ
発行所:ミューズコーポーレーション 
制作:CM総合研究所
刊行日:2024年4月5日 
判型:B6判
ページ数:88 
定価:紙版1600円/デジタル版1400円(税別)
ISBN(紙版):978-4-910591-64-3 C0063    
ISBN(デジタル版):978-4-910591-59-9 C0063

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