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JAC AWARD 2023 グランプリ受賞者のインタビュー 【ディレクター個人応募部門 小口 勝一氏】


 一般社団法人 日本アド・コンテンツ制作協会(JAC)が主催する『JAC AWARD』は映像文化の発展を目的に、映像クリエイターの発掘・人材の育成・映像技術の向上や若手のモチベーションアップを図り、制作サイドの見地から表彰を行う賞として2007年に設立された。2023年度はコロナ禍で開催が中止されていた最終審査会のリアルイベントを4年ぶりに実施した。
 本記事ではディレクター個人応募部門でグランプリに輝いた小口勝一氏(株式会社 東北新社)に受賞対象となった仕事の概要や広告制作に携わる上で大切にされている考え方、今後挑戦したいことなどについて語っていただいた。
【 CM INDEX 2024年3月号に掲載された記事をご紹介します。】

企画の余白を活用して現場でストーリーを仕上げる

小口勝一氏
株式会社 東北新社
プロダクション事業部 P1
島瀬チーム
チーフプロダクションマネージャー
2016年に東北新社に入社後、主にCMなど広告映像を制作する部門にてプロダクションマネージャーを務める。制作部としての担当作品は「サントリーほろよい」「湖池屋スコーン」など。
「割り切った人」
海パン、Tシャツ姿の男性が海に向かって「♪こんなもんじゃねえよ」などと力強く歌ったり、尻で割り箸を割ったりする。その様子を弁当を食べながら眺めていた男性が優しくうなずくストーリー。

動画はこちら

— テーマである多様性の表現方法について
 「多様性」というと大きく捉えがちですが、それを形作るのは個々人です。集団の中の違いを描くのではなく、自分らしさを爆発させるひとりの人間を描くことで多様性のあるべき姿を表現したいと考えたのが出発点です。映像のスケールを大きくするために海辺を舞台とし、男性が力強いパフォーマンスを披露するという骨子を固め、上半身に続いて全身を映すことでネタを明かす流れを設計しました。お尻で割り箸を折るという表現は、何かを突き破ることを象徴しています。
 歌も大事な要素です。メッセージをセリフにしてしまうと言い訳のようになりそうですし、ナレーションでは説明的で冷めてしまう。歌にすることで主人公の気持ちが自然と入ってくるようにしたかったんです。軽音部に所属していたこともあり音楽が好きだったものの作詞作曲の経験はほとんどなかったのですが、今回はサンボマスターさんをはじめエネルギッシュなアーティストのMVを見ながら、パソコンソフトでメロディーをラフに作り、撮影当日に演者と一緒に歌を固めていきました。
 歌だけではなく、演出そのものをガチガチに固めず余白を作って撮影に臨みました。主人公を見ながらお弁当を食べる男性の反応もあえて事前に決めることをせず、現場で感じたことをその場で演出に取り入れました。ふたりの演者が学生時代からの友人であることや、個人部門という規模感だからこそ許される余白をうまく活用できたことが良かったと考えています。
 主人公の抱く悔しい思いを表現するため、日が昇り切っていない午前中に撮影し、ちょうど曇りになったので、それらを生かしつつ、暗く青めに色味を調整しています。またドキュメンタリーではなくフィクションとして描くため、映像そのもののトーンにもこだわりました。

「映像を作りたい」と言えるチャンス
制作兼演出のハイブリッドを目指す

— 今回の受賞をどのように感じられますか
 部活なども含めて何かの大会で一番になるのは初めてだったので、大人になって実現したことが率直にうれしいです。現在はプロダクションマネージャーとして制作進行をするのが主な業務ですが、入社時からディレクターにも挑戦したいという思いがあり、そのチャンスを得たと感じています。
 ディレクターの佐藤渉さんから「“今回はたまたま審査員のツボに入った”くらいの謙虚さで受け止めた方が良い」とアドバイスをいただいた通り、「自分はすごい」とは思っていませんが、制作部の人間でも自ら映像を作りたいとアピールできる材料になったのではないかと。同じ会社でもプロデューサーの所属する制作部とディレクターの所属する企画演出部はコミュニケーションの場が少なく壁を感じることもあります。受賞をきっかけに社内のディレクターの方々にいろいろと学ばせてもらい、いつか制作業務に加えて演出業務もハイブリッドに携われるようになりたいと思っています。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。