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Creator Interview 篠原誠氏(株式会社 篠原誠事務所)前編


好感と共感の力でメッセージを届ける

史上初の9年連続CM好感度総合1位に輝いたKDDI『au』をはじめ、数多くのヒットCMを手掛ける篠原誠氏。今年は生成AIを活用して制作した「三太郎」シリーズのCMが元日から放送され、注目を集めている。本作の企画意図や展開10年目を迎えた同シリーズが愛され続ける理由、効果的な広告を作る上での考え方などについてお話をうかがった。
(取材:2024年1月31日)
【 CM INDEX 2024年3月号に掲載された記事を2回に分けてご紹介します。(第1回/全2回)】

篠原誠氏
株式会社 篠原誠事務所
CREATIVE DIRECTOR
1972年三重県生まれ。一橋大学商学部卒業後、1995年株式会社電通に入社。2018年篠原誠事務所を設立。マスからデジタル、店頭までの全体コミュニケーションの構築を得意とする。CMソング『海の声』や『みんながみんな英雄 2024』などの作詞も手掛ける。クリエイター・オブ・ザ・イヤー、カンヌブロンズ、アドフェストゴールド、ACCグランプリ、TCCグランプリ、ADC賞、電通賞など受賞多数。
生成AIを用いて制作したau「三太郎」シリーズの年始CMが話題を集めました
 2015年の元日に誕生した三太郎シリーズは、早いもので今年10年目を迎えます。恒例となったお正月CMは、KDDIさんと実施の有無も含めて毎回ギリギリまで話し合いながら作っています。かつては通信会社や自動車メーカーなどを中心に、新年最初のCM枠が争奪戦になるほどでしたが、最近はそうした傾向が薄れていますよね。ですのでここ数年は必ずしも続けるだけが正解ではなく、年始CMを作るなら新しいことに挑戦したいというKDDIさんのご意向があり、昨年はTikTokのクリエイターなどを起用したダンスCMをオンエアしました。
 今年の年始CMについては、KDDIさんから「AIをテーマにしては」というお話が出たんですね。また、昨年auが特別協賛したアニメ映画の連動企画で、誰でもキャラクターを創作できる生成AIコンテンツを提供した実績もあったことから「CMと同時にユーザー参加型のコンテンツも展開したい」とうかがいました。そこからAIを軸とした企画の方向性が定まったものの、映像や音声、編集といったどのパートでAIを使えばいいか、ゼロベースで試行錯誤を続けた結果、生成AIを使ってこれまでの三太郎CMの名シーンをアニメ化するというアイデアにたどり着きました。人間の仕事がAIに奪われるといわれるように、AIを使えば何でもできるイメージがありますよね。CMのコンテを入力したらストーリーも映像もパパッと作ってくれそうじゃないですか。ですが実際はそうでもなくて。CMをご覧いただければ分かりますが、現状においてAIを活用したアニメは、どうしても画像のチラつきが出てしまいます。ただ、編集でこうしたチラつきを修正してしまうと、AIを使う面白みがなくなってしまう。完璧とはいえないクオリティーでも「いまAIってこんな感じだよ」とよちよち歩きの状態を見ていただく方が面白いですし、粗削りでもまずは“やってみる”というチャレンジングな姿勢が伝わればと考えました。
 制作に当たっては、まず9年分の三太郎CM約180作品をもとに、歌詞に合わせて人力で編集しました。その後、動画ではなくアニメ化する部分のシーンを1秒24フレームとして、フレームごとに、イラストレーターの松本ぼっくりさんの200枚ほどの作品を学習したAIによってアニメ画像に変換しました。つまり、 60秒CMを作るために合計1440フレームのアニメ画像をつなぎ合わせています。普段のCM制作に比べ大変だったのは、発展段階にあるAIが「できること」と「できないこと」の見極めで、その検証自体がひとつのチャレンジでした。例えば、今回の生成AIは場面のつながりまでは理解することができません。そのためフレームごとに衣装やアクセサリーの柄が変わってしまったり、金太郎がフレームごとに女の子になったり男の子になったりと出力の不安定さにたびたび驚かされました。苦労したともいえますがまさに発見の連続で、制作プロセスの一つひとつが貴重な学びとなりました。
CMのキャッチコピーに込めた思いや、体験型コンテンツ「さぁ、何やる?メーカー」について
 今年は三太郎シリーズ10年目の節目ですし、KDDIさんのインナーにも機能するメッセージにしたいと考えました。そこで思いついたのが「やってみよう」「一緒にいこう」といった“Let’s系”からさらに一歩踏み込むような疑問形のフレーズです。友だち同士が集まったときに「今日、何やる?」と尋ねるニュアンスに近いかもしれません。年の初めに「さぁ、何やる?」と投げかけられたらドキッとするんじゃないかと。「楽しいことにチャレンジしよう」といったポジティブな印象を与えますし、仕事の場面でも使いやすいと考え、提案させていただきました。
 本シリーズで正月のオリジナル楽曲を最初に作ったのが展開2年目の2016年の年始CMでしたので、当時『みんながみんな英雄』を歌っていただいた歌手のAIさんに今回もお声掛けしました。当時と同じ曲にする案もあったのですが、新しい歌詞を書いてみて、AIさんにご相談したところ、その歌詞を歌った音源をすぐにお送りくださったんです。その歌声があまりに素晴らしかったので迷うことなく新たな歌詞に変更し、今回のCM用にアレンジしてもらった『みんながみんな英雄 2024』が誕生しました。CMと連動して展開した「さぁ、何やる?メーカー」は特設サイトで今年やりたいことを入力すると、生成AIが内容に応じた歌詞、歌声、イラストを組み合わせたオリジナルのミュージックビデオを作成してくれるという体験型のコンテンツです。AIに対する一般の方々の反応が読みきれない部分もありましたが、公開1カ月で動画生成数が3万件近くに上るなど好評をいただいています。ChatGPTといった生成AIなどの先端技術は実際に触れてみないと魅力が分からないですよね。このコンテンツも体験して初めて面白さが伝わると思いますので、何度も入力内容を変えて楽しんでくださった方が多かったのではないでしょうか。本コンテンツもCMも実験的な試みでしたが、これらを通して今のAIにできることを多くの方々へお伝えできたことに意味があった気がします。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。