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データベンダーが紐解くマーケティングの潮流:多様化する広告効果測定手法 目的に合わせた選択を


インテージ、エム・データ、エスピーアイ、CM総合研究所が現在のマーケティングにおけるトピックやトレンドにフォーカスする本シリーズ。第5弾となる今回は、多様化する広告効果の測定手法を取り上げる。メディアや技術の発展を背景に次々と新しい測定手法が誕生する中、インテージの田窪和也氏は「万能な手法はない」と語る。適切な効果測定の進め方や手法の選び方、各手法のメリット・デメリットなどについてお話いただいた。
【 CM INDEX 2024年2月号に掲載された記事をご紹介します。】

田窪和也氏
株式会社インテージ
カスタマー・ビジネス・ドライブ本部 マーケティング戦略本部
コミュニケーション戦略支援グループ コミュニケーションストラテジスト

広告代理店を経て、2015年株式会社インテージに入社。「コミュニケーションプランニング」「広告効果測定」などコミュニケーション領域における企画・分析・コンサルティングを担当。

アンケートからログ、データクリーンルームへ
時代に合わせて進化する調査手法

— メディアの多様化や技術の進歩により、広告効果の測定手法も多彩になっています
 10数年前まではテレビへの出稿が非常に多く、広告の効果測定はテレビCMに関する調査が中心で、なかでもアンケートによるクリエイティブの評価が主流でした。2013年頃からデジタルシフトが加速し、インターネットの広告費が顕著に伸長していきました。またテレビやデジタルの広告接触ログが取得できるようになり、アンケートや購買データと組み合わせた調査手法が広がっていきます。インテージが『i−SSP®(インテージシングルソースパネル®)』をリリースしたのもこの頃になります。
 日本でインターネット広告の広告費がテレビ広告を上回ったのは2019年ですが、これに前後してGDPR(EU一般データ保護規則)をはじめ個人情報の取り扱いが厳格化されるようになり、またクッキーレス化も進みました。これに伴いSNSを中心に行動ログが取得できないデジタルメディアが増加し、広告接触ログを活用したメディア横断リサーチが難しくなってきました。こうした変化を背景に、大手プラットフォーマーによる個人情報を保護しつつデータ分析ができるデータクリーンルームの活用が広がり、また個人情報を必要としないMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)があらためて注目を集めています。同時に人ベースの評価手法も進化を続けているのが現状です。

測定手法から入るのではなく役割や目的によって手法を選ぶべき

— 広告効果測定の手法を選ぶ際に注意すべき点とは
 お問い合せいただくことが多いMMMは自社の実績データ(販売金額・数量など)やマーケティング投資関連データ(広告出稿実績など)など既存のデータで完結するので、「何でもできそう」というイメージがあるのですが、万能ではありません。MMMに限らずではありますが、手法から入るのではなく、「何を知りたいか」「何に使いたいか」という目的に合わせて測定手法を選ぶことが重要です。
 広告には多くの人が関わっていますよね。事業やブランド単位で管理する人、マーケティング、キャンペーン単位、メディアバイイングなどそれぞれ担当があり、その役割によって選択する広告効果測定の手法は異なります。
 経営企画や事業企画などマーケティング予算全体の最適化を図るのであればMMM、宣伝部やマーケティング部などが担当する統合的な広告キャンペーンのPDCAであればメディア横断リサーチ、枠やタイミングといった各メディアの効果効率の改善であればメディア単体リサーチ、大きくはこの3つに分かれると思います。
— それぞれの測定手法のメリット、デメリットについて
 MMMはマーケティング予算における各施策の最適化に有効です。一方で認知や好意度、購買意向といったファネルの状況は見えにくく、例えば購入意向を上げるためのアクションプランを作成するのであれば、人ベースの調査手法を用いることが必要です。

ログの有無などの条件で手法が変わる
それぞれにある“落とし穴”に注意

 メディア横断リサーチはOTS(Opportunity To See・広告接触機会推定)によるアンケート、複数のメディアの広告接触ログによるアンケート、アンケートのみの3パターンに分かれ、これらを通して態度変容など各メディアの効果を横並びで比較することが可能です。ログが取得できるテレビやYouTube、GDN(Googleディスプレイネットワーク)などのみを対象とするのであればアンケートと組み合わせて精度の高い測定が可能です。
 ただ最近はSNSや動画サービスを広告コミュニケーションに活用するケースが多いのですが、先ほど申し上げた通りログの取得できるメディアが少ないため、その場合はOTSによるアンケートの組み合わせが選択肢となります。OTSはメディアカバレッジと妥当性を両立した手法として注目されています。ただ推定という点は留意すべき点です。
 メディア単体リサーチは広告接触ログとアンケートを掛け合わせ、フリークエンシーなどの詳細な分析ができ、主に出稿量が多いテレビや動画サービスなどで活用されています。ただ、異なるモニターを横並びで評価をする分析を見かけますが、基準などもそれぞれ異なるため、個別に実施したメディア単体リサーチの結果を比較することができないという点は落とし穴のひとつだと考えています。

すべてを満たす万能な調査はない
適切な手法の選択が重要

 マーケティング予算の配分を決めるためにMMMを実施し、キャンペーンやメディアの単位での評価や具体的なアクションを作成するのではあればログやアンケート調査を実施することになります。現在は複数メディアによる統合的な広告のPDCAというニーズが非常に増えています。メディア横断で精緻な検証を求めるのであれば、OTSや広告ログとアンケートを組み合わせた調査になりますが、認知やイメージの変化が分かれば良いのであれば、簡易的なアンケート調査でも問題ありません。
 なお、人ベースの調査をすべきなのにMMMを選んでしまうケースも見受けられます。すべてを満たす万能な測定手法はなく、また調査費用も限られている中で、やはり目的や制約、検証のレベルで適切な広告効果測定の手法を選択することが重要だと考えています。

“総合診療”だからこそ無駄のない効率的な手段を提供

— 効果的な広告展開に向けた貴社のソリューションとは
 統合的なコミュニケーションが主流となる中、どのような広告を作るかというクリエイティブ面に加え、今後どのメディアを選択し、投資していくべきかという視点が非常に大切です。テレビ、動画広告、SNSと大きく3種類ありますが、インテージでは各メディアの露出量やリーチを把握し、ブランド認知や購入意向といったKPIがメディアごとにどのくらい上昇したかを横断的に評価することができます。
 OTSとアンケートによる『広告目標マネジメントプログラム』では、テレビやデジタル、オフラインといったメディアを横断したキャンペーン効果を可視化でき、各メディアの効果を横並びで評価することができます。またOTSは推定のためログに比べて精度が低下してしまいますが、インテージではi−SSPのメディア利用状況のログを教師データにして補正をかけることで精度を向上させています。また高いリフトを示したメディアほどコストが掛かっているケースなどもあるため、金額換算したROI(Return On Investment)を算出したり、テレビやYouTube、動画サービス・SNSなど各メディアの利用率とリーチ率を加味して“伸びしろ”を算出したりするなど、適切なメディアを選択できるようサポートをしています。
 広告接触ログとアンケート調査による『Brand Impact Scope®』では、「Media Gauge® Dynamic Panel®」でテレビ、「Ads Data Hub」でYouTubeの広告接触をログベースで判別したモニターに対して、態度変容などのアンケートを実施します。これにより効果的なフリークエンシーは何回か、どのデバイスでの接触が有効か、どちらの素材が効果的かなど、より正確に、詳細に分析できます。
 MMMのソリューションが各社からリリースされていますが、インテージでもMMMから各メディアの効果向上の支援なども行っています。当社は内科もあれば外科もあり、あらゆるバリエーションから症状に対して適切な治療をするといった“総合診療”なんですね。お客さまが知りたいことを最適な手法で提供できること、それが最も無駄なく効率的であり、インテージの強みだと考えています。
 万能な測定手法がない以上、目的に沿った手法を選択すること、調査のメリット・デメリットを理解して正しく評価することが最も大切ではないでしょうか。

その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。