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データベンダーが紐解くマーケティングの潮流:多様化するメディアの現状と 広告のROIを正しく評価する(第1回/全2回)


インテージ、エム・データ、CM総合研究所が現在のマーケティングにおけるトピックやトレンドを掘り下げる本シリーズ。第4弾となる今回は第三者機関としてメディア・オーディット(広告購買監査)に長年にわたって取り組んでいるエスピーアイを迎えた。テレビ、デジタルそれぞれのメディア・オーディットの手法や課題、多様化が進むメディア環境下での効果的な広告出稿方法などについて、小久江士郎氏、土井貴博氏にお話しいただいた。
【 CM INDEX 2023年11月号に掲載された記事を2回に分けてご紹介します。(第1回/全2回)】

小久江士郎氏
株式会社エスピーアイ
執行役員 上席シニアコンサルタント

2006年にエスピーアイへ参画、2009年にメディア監査専門部隊の責任者に就任、2022年より現職。メディア監査からデジタルコンサルテーションまで総合的なパフォーマンス改善の取組みを支援
土井貴博氏
SPIインタラクティブ株式会社
代表取締役CEO

2003年にデジタル・エージェンシーを創業。2012年に英Aegis Mediaと資本提携。Aegis Mediaの電通グループ入り後もCEOとして同社のビジネスを牽引。2017年よりSPIインタラクティブの代表に就任

広告媒体購入のROIや取引プロセスを第三者の視点から評価

— メディア・オーディットとは。また広告の効果測定との違いについてお聞かせください
小久江:メディア・オーディットは主に3つに分けられ、一般的に知られているのが「メディア・バイイング・オーディット」で、広告媒体の購入価格、広告がどのくらい見られたかという露出量、正しい面で露出できたかという品質を監査し、広告購入のROI(投資利益率)を第三者として評価します。もうひとつが「メディア・プロセス・オーディット」です。広告は広告会社を通して購入するケースがほとんどですが、枠の買い付けやプランニング、事後報告と広告購入に関連する取引プロセスが適正に行われていたかを評価します。「メディア・コンプライアンス・オーディット」はROIや取引プロセスより前の段階、請求や納品が契約書で決められた通りに行われているかを確認するものになります。

メディア・オーディットと効果測定は別物
課題発見のために両輪での確認を

小久江:広告の効果測定は広告を打つことによってどれだけものが売れたか、どれだけ認知が高まったかというマーケティングのROIを測定するもの、一方メディア・オーディットは効率よく広告を購入できたかを評価するものですので、似ているようでまったく異なるものです。
 例えば出稿金額に対して想定ほどの効果が出なかった場合、広告購入価格が高すぎたのか、あるいはクリエイティブに問題があったのか、メディア・オーディットと効果測定の両方を確認しなければ課題の所在がつかめませんから、両輪で見ていくことが必要です。

グロス取引が一般的な日本の広告
媒体原価を確認することが重要

— どのようにメディア・オーディットを実施するのでしょうか
小久江:マスメディア、予約型のメディアについては価格が正しいかどうかは契約によるため、媒体原価や取引手数料などが開示されていないグロス契約の場合、メディアから広告会社への請求書と、媒体原価と取引手数料を合わせた広告会社からの明細書を開示いただき、それらを突き合わせて確認していきます。例えば広告会社から「取引手数料を20%から15%に下げます」といった提案があったとしても原価が分からなければ証明できないのですが、そもそも日本でこうしたチェックが行われないことがほとんどです。この媒体原価の開示を契約書の段階で盛り込むことが必須だと考えております。
 露出量については購入価格の単位に基づいてチェックすることになります。テレビでは見込みの視聴率で取引されるので、見込みで500GRPを購入したのであれば500GRPの納品がされているかを線引表でチェックします。線引表に対して実際にその本数が放送されたかは放送確認書を開示していただき、ビデオリサーチさんの公式な視聴率データと突き合わせていきます。
 ほかのマス媒体のオーディットも実施していますが、例えば新聞であれば広告露出のあった掲載紙を取り寄せるなどの確認をします。広告会社との取引は月ベースの全媒体合計でするため複雑な部分があり、広告主、広告会社ともに気づいていない中で、メディア・オーディットを通して二重請求が発覚したといった例もあります。

デジタルの監査は広告主と広告会社の取引をプラットフォームデータで照合

土井:デジタルの場合も実際に合意された内容通りに取引が履行されているか、エビデンスをたどって見ていくという点はマスメディアと同様です。我々が主に実施しているのは広告主と広告会社との取引に関する監査で、デジタルはトランザクションの量が多く人為的なミスが発生するというケースが少なくないため、エビデンスと照合してギャップがあれば指摘していきます。
 その際に何をエビデンスにするかというと、プラットフォームのデータになります。大手広告主が出稿するデジタルメディアは10件前後の主要プラットフォームに収まるため、このプラットフォームのデータを活用します。

プラットフォーム頼みの現状に課題
データの粒度は進歩している

— テレビは視聴率データを元にほぼ100%の精度でオーディットできる一方、デジタルが依拠するプラットフォームの開示するデータの精度とは
土井:プラットフォーマーが開示したい情報しか開示されていないのが現状で、本来であればプラットフォームのデータをもっと細かく検証したいという思いはあるのですが、それをする術が今のところありません。
 例えばインプレッション数が正しいか正しくないかでいえば、事実とプラットフォームの開示するデータではおそらく数パーセントの差異があります。不正なインプレッションが含まれてしまうのが原因ですが、プラットフォーム側による意図的な不正はメリットがないためほとんどないと考えています。
 クリック率などのトラフィックは受け入れ側にアクセス解析がありますので、ここもメディア監査の対象としているのですが、誤ってクリックしてすぐに戻った場合もシステム上は機械的に1カウントとするなど、事実との差異が生まれます。また、どのように計測するかはアクセス解析ツールを提供している限られた企業が事実上のスタンダードを作ってきた状況ですが、一方でさまざまな広告プラットフォームによる計測は、統一指標として使えない場合もあります。
 不正の検知を目的に開発されたアドベリフィケーションを計測に活用するという流れもあるものの、プラットフォームが開示するデータを受け入れるしかない状況は前提としてあり、そこは変わりません。以前、プラットフォーム側が間違った計算式に基づく数字を用いてレポートをしていたという問題がありましたが、これも外部からは検証して指摘できるものではありません。デジタル広告は一部の大手プラットフォーム企業が業界のスタンダードを作り、周りはそれを追いかけるという構図になっています。
 ただ、プラットフォームはなるべく細かくデータを開示しようと努力していると感じます。オープンな競争が働いていますので、メジャーなプラットフォームが新しい指標を作れば他社もそれに追従し、結果としてデータの粒度がリッチになっていった側面もあります。
写真:長谷川大
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。