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【第60回ギャラシー賞】テレビの持つ力を広く伝えていく


 NPO法人 放送批評懇談会は、優れたテレビ番組・ラジオ番組、CM作品、放送文化に貢献した個人・団体を「ギャラクシー賞」として毎年表彰している。5月31日に開催された第60回ギャラクシー賞の贈賞式で各部門受賞者、受賞作品が発表され、放送批評懇談会60周年記念賞を受賞したタモリら豪華な顔ぶれが出席。CM部門のギャラクシー大賞には大塚製薬のカロリーメイト「狭い広い世界で篇」が選ばれた。
 審査を務めた選奨事業委員長の出田幸彦氏、 CM部門委員会委員長の家田利一氏に、ギャラクシー賞の持つ意義をはじめ、受賞作品の受賞理由や傾向、今後の放送のあるべき姿などについてお話をうかがった。
(インタビュー収録日:2023年8月18日)
【 CM INDEX 2023年9月号に掲載された記事をご紹介します。】

選奨事業委員長
出田幸彦氏
1970年にNHK入局。主に科学ドキュメンタリーを制作。番組制作局長、編成局長、理事を務める。2016年からギャラクシー賞テレビ部門委員長、20年から選奨事業委員長。

CM部門委員会 委員長
家田利一氏
CM部門 審査員として5年目。株式会社博報堂でCMプランナーの職を得て37年勤務し、現在はフリーランスのクリエイティブディレクターとして活動している。

— 創立60周年を迎えた放送批評懇談会、ギャラクシー賞についてお教えください
出田:今年はテレビ70年、NHK、日本テレビがテレビ放送を開始したのが1953年です。放送批評懇談会を設立したのはその10年後です。当時のテレビはまだ草創期ですから、先人たちが放送を発展させるために批評の力が必要と考え、放送批評懇談会を誕生させました。その活動の柱として創設されたのがギャラクシー賞です。優れた番組や企画、制作に携わったクリエイターの皆さまを表彰し、制作現場の活性化につながることを主な目的としています。
— 放送を取り巻く環境が大きく変化する中で、ギャラクシー賞の意義とは
出田:審査は第三者に委託せず、選奨委員は放送批評懇談会の会員から選ばれます。各委員は日々テレビで見たりラジオで聞いたりした番組を毎月行われる定例会に持ち寄り、お互いに批評、意見交換をしています。こうした議論を通して委員としての資質も高まり、見識も深まっていく中で、年2回の応募作品を審査しています。他のアワードとは異なるこの審査方法がギャラクシー賞のひとつの特徴です。
 また一般的なアワードではドラマ、ドキュメンタリーなど細かいジャンルごとに優秀賞を選出する形が多いですが、ジャンルを超えて放送メディアとして優れたコンテンツかどうかを評価する点もギャラクシー賞ならではの特徴だと思います。
家田:CM部門委員会には13人の委員がおりますが、議論をする上で重要なのは人選で、年齢階層や職歴など、それぞれ異なるバックグラウンドを持つ方々に集まっていただいています。毎月の定例会への参加と、ひとり当たり3〜5本のCM作品のピックアップが必要になるため、そうした負担をこなしてくれる方、またCMを公平に見られる方に委員をお願いしています。
— 本年度の受賞作品、またその傾向について
出田:動画配信などメディア環境が変わる中で、放送に携わっている皆さまにはやはり「今」を伝えているという時代感覚を持って番組を作ってほしいと願っています。「放送にはまだできることがある」とテレビやラジオの可能性を感じさせる作品を表彰することにより、放送の価値を社会に再認識してもらうのと同時に、制作現場に活力が生まれるのではと期待しています。
 テレビ部門の大賞を受賞した関西テレビ放送『エルピス −希望、あるいは災い−』はメディアや報道の在り方を問う、これまで切り込めなかったテーマに挑戦し、テレビが自己批判しながらテレビ自身の姿を描くという、テレビの今後の可能性を感じさせる作品でした。優秀賞を受賞した沖縄テレビ放送、BS−TBSの番組はいずれも地道な調査報道や忖度をしない制作者の真摯な姿勢が高く評価されました。
 またNHKの『世界サブカルチャー史』や『映像の世紀バタフライエフェクト』、ラジオ部門大賞の琉球放送の番組など、アーカイブを活用した番組が数多く受賞しました。広島テレビ放送が60年にわたり制作したドキュメンタリー素材を平和教材として活用する取り組みも報道活動部門の大賞を受賞しています。放送局が積み重ねてきた記録があってこそ実現できるもので、今後の放送の役割を示してくれたと考えています。

そのCMが「ある」か「ない」かの差
この時代を生きる人々への貢献

— CM部門の審査はいかがでしたか
家田:審査委員による協議を重ね、CM部門では今期からウェブCMも審査対象としました。ただしミュージックビデオやメイキングなどは除外し、企業をベースにした広告目的のウェブCMに絞っています。
 今回の受賞作品の特徴をひとつ挙げるとすると、コロナ禍、コロナ明けの日常をどのように捉えるかがポイントだったように思います。JR東海のCMはUAの歌に乗せて新幹線を思い出させる
カットが重なり「人に会いに行こう」という気持ちにさせますし、こうした解放感が今の私たちに必要なのではないかと思いました。ACジャパンの「寛容ラップ篇」は、イライラすることだらけの日々に、ひとつの答えを出してくれています。これらは「見て良かった」という気持ちが生まれるCMで、この時代を生きる人々に対して何からの形で資することができたかも大きなポイントだったように思います。
 サントリーホールディングスの『人生には、飲食店がいる。』は、コロナ禍によって我慢せざるを得なかった飲食店で過ごす時間を呼び起こし、コロナが明けたら足を運びたいという思いを促進するタイムリーな企画です。映画のワンシーンを積み重ねることで、視聴者によく知られた映画や人物が登場するというサービス精神も感じられます。また著作権など企画の実現に向けたさまざまな課題をクリアしており、コンテンツのクオリティーを支える仕事の質の高さも評価されました。
 大賞の大塚製薬『カロリーメイト』は視聴後にグッとくる大きな感動があります。また、スマホから見た縦型の画面だけで完結するのではなく、インサート映像やなかやまきんに君のスタンプなど多彩な要素が詰め込まれています。そうしたディテールに加え、合格の瞬間の画面が揺れる演出でクライマックスを迎える。構成から仕上げまで、グランプリにふさわしい作品だと思いました。
 ウェブCMの日本マクドナルド『ティロリミックス』はポテトを揚げ終わった音を使った音楽とCGアニメで展開し、作品のクオリティーが高いことで票を集めました。佐賀競馬の「おいでやすこが様をうまてなし。」では旬のお笑いタレントの体験を通してその魅力を伝えています。本作を制作したからこそ、佐賀競馬をまったく知らない人にもゼロから興味を抱かせることに成功したのではないでしょうか。この動画がある場合、ない場合の差は大きく、その点が評価されたように思います。

ギャラクシー賞で培った知見を通し
配信コンテンツの評価も視野に

— 今後の取り組みについてお聞かせください
出田:まずはギャラクシー賞60年を迎え、あらためて制作現場の皆さまの番組作りに光を当て、熱い応援メッセージやエールを送り続けていきたいと決意しています。
 もうひとつは配信コンテンツの扱いについてです。今回から初めてCM部門に審査対象として加えましたが、企業などの広告展開でウェブCMが大きな比重を占めるようになったのが大きな理由です。海外のアワードでは配信コンテンツも審査対象とするケースが増え、受賞作も数多く生まれています。ギャラクシー賞として今後どう対応していくか検討する必要がありますが、私個人としてはギャラクシー賞で培ってきた評価する力を活用して、対象を配信コンテンツにも広げていければいいと考えています。

テレビから魅力的なCMが減少
クリエイティブの力を伝えたい

家田:地上波を見ていると長尺の同じ内容を繰り返すシニア向けの通販CMが増えてきて、魅力的なクリエイティブのCMの割合が減っています。シニアになるほどテレビの視聴時間が長いため、CMが最も効果的ですし、営利企業であるテレビ局としても受容するのは当然ですが、この流れには個人的に課題を感じます。
 また、テレビのリモコンにYouTubeなどの配信メディアのボタンがあり、生活者はテレビで放送を見ずにいきなり配信コンテンツを楽しむことができます。この変化は大きく、広告主の方もどのように視聴者に情報を届けるかという課題に直面しているのではないでしょうか。優れたCMを制作するのはオーナー企業が多く、オーナーご自身が広告の力を理解されているように思います。CMはマーケティングツールですから、企業がその成果を重視するのは時代の流れとはいえ、やはり広告主の皆さまには豊かなクリエイティブの持つ力を知ってほしい。私としてはギャラクシー賞を通して、優れたクリエイティブの力をこれまで以上に広く発信していきたいと考えています。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。