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Leader's Interview 川村 和夫氏(公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会)


広告に対する責任は広告主にある
量だけでなく質にも目を向けるべき

デジタル技術やメディアの進化を背景に広告の在り方が問われる中、日本アドバタイザーズ協会(JAA)の理事長に就任した川村和夫氏は「広告主自身がメディアの発展、広告の質的向上に関与すべき」という思いを語る。 広告を取り巻く環境、JAAの今後の取り組みなどについてお話しいただいた。
(取材:2023年8月9日)
【 CM INDEX 2023年9月号に掲載された記事をご紹介します。】

インタビュイー
川村和夫氏
公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会
理事長
1953年生まれ。宮城県出身。1976年早稲田大学卒業後、明治乳業株式会社(現・株式会社明治)に入社。2011年株式会社明治取締役、2012年同代表取締役社長、明治ホールディングス株式会社取締役などを経て、2018年同代表取締役社長、2020年CEO。2023年2月に日本アドバタイザーズ協会理事長に就任。

— 今年2月に理事長に就任されました。就任に際しての率直な思いをお聞かせください
 責任重大だと思っております。我々は広告主という立場で、広告会社、制作会社、メディアの皆さまにご協力いただき広告を発信しておりますが、広告主自身が広告の発注者として真摯な対応をしていくことが大切です。JAAに加盟していただいている264社に限らず、それ以外の広告主の皆さまも含め、広告に対する品質やコンプライアンスについて、広告主に責任があるということをコミュニケーションしていかなければなりません。
 また、会員社の皆さまによる積極的な活動への参加がJAAの原動力となっています。まさに手弁当で委員会やセミナーに取り組んでいただき、建設的なご意見をいただけている。こうした会員社の皆さまからのご協力を引き続きいただけるよう、環境作りをすることも私の役割だと考えています。
— メディア環境が変化し、広告を届けることが非常に難しくなっています
 私はBtoCの企業におりますので広告やコミュニケーションの重要性は理解していますが、この10年ほどのメディアの変化は想像を超えています。企業からのコミュニケーションとしての広告の役割は変わっていないと思いますが、それを実現するためのメディアが多様化し、質の面で大きな影響を及ぼしはじめていると感じます。

デジタルメディアは発展途上
広告主の積極的な関与が重要に

 デジタルメディアが大きな存在感を持つことは世の中の変化として当然のことだと思いますが、コミュニケーションのクオリティーを保ち続けることが重要です。従来のマスメディアはコンプライアンスやクオリティーに対して長い年月をかけ作り込んできた安心感がある。一方でデジタルメディアは玉石混交と申しますか、本腰を入れて取り組んでいる事業者とそうとはいえない事業者が混在しています。JAAとしてもJICDAQ(デジタル広告品質認証機構)を立ち上げるといった取り組みには力を入れており、こうしたアプローチを続けていくことで、メディア側を含めたデジタル広告の質的向上につながるのではないでしょうか。
 マス四媒体の広告費とインターネットの広告費が逆転し、今や大きく差が開いています。現在、テレビの接触時間は135.4分であるのに対し、携帯・スマートフォンは151.6分で、10年前から約100分も伸びています。そういう意味ではデジタルメディアで発信しなければ生活者に届きにくいと広告主も思っているはずで、デジタルを活用する流れは変わらないと思いますが、発信していく情報のクオリティーについて管理することも広告を発注する広告主の責務ではないでしょうか。メディアの変化は技術革新の結果であり、その流れ自体は変えられませんので、そうであれば広告主が理解し、積極的に関わっていくことから始めなくてはと考えています。
 またJAAの会員社の関心が高まっているのがコネクテッドTVです。テレビ受像機のネット接続率は56.8%と半数を超えており、テレビは放送を映すだけのものではなく、むしろデジタルコンテンツの受像機となっている。コネクテッドTVを有効に活用するためにどうすべきか、広告主としても勉強していかなければなりません。

幅広い世代に正しく情報を届ける
テレビならではの大きな価値

— デジタルメディアが伸長する中、広告メディアとしてのテレビの可能性をどのようにお考えですか
 各社の皆さまのお話をうかがうと、再評価されていると感じます。ストーリー性を持って物事を伝えるという点で、テレビは年齢、興味などを超えて広く情報を届けられる強力なメディアです。また内容に嘘がない、誇大ではないなどの厳しいコンプライアンス項目があり、それらが守られた上で生活者の方々と直接コミュニケーションができる点はテレビならではの大きな価値です。
 また、何度見ても記憶に残らないCMもありますが、1回見ただけで記憶に残るCMもあり、良いコンテンツであればあるほど効果的ともいえます。経営は数字ですから、出稿した分だけ効果はあるはずだと量の概念で捉えがちですが、コンテンツとしてのクオリティーも重視すべきだと考えています。
 クオリティーに対する関与という点では、テレビもデジタルも変わりません。アメリカでは広告主がデジタルメディアの発信者を自身で育てたり、ハウスエージェンシーを立ち上げたりするなど関与度が非常に高く、そのことが全体的なクオリティーを押し上げているそうです。広告は企業コミュニケーションですから、発注者である広告主が内容やクオリティーにまで責任を負うべきだと自覚することが大切ではないでしょうか。

広告は企業活動の一環
だからこそ社会的側面も重要

— 今後、取り組みたいことについてお聞かせください
 一経営者として感じることは、企業の果たすべき役割のフィールドが以前に比べて広がり、特に社会課題の解決に向けた貢献を期待される時代になっているということです。かつて社会課題は国や行政といったパブリックな主体が解決するものでしたが、今は企業にその役割が求められるため、企業活動の中にSDGsやESGを組み込み、営利事業と両立していくことが重視されています。広告にも同じことがいえるはずで、企業活動の一環である以上、社会課題に対する活動や貢献などが広告のひとつのテーマになると考えています。
 広告の社会性もポイントで、SDGsにある「誰ひとり取り残さない」ことを実現するための取り組みとして、JAAでは字幕付きCMの普及を推進しています。聴覚に障がいや不安を抱えている方は日本で3000万人を超えると言われていますが、CMへの字幕の付与率は現状20%程度にとどまります。生活者の皆さまに情報を正しく伝えるためにも、広告主である我々が課題解決に向けて主体的に力を入れていくべきではないでしょうか。
 また社会が期待する一定の倫理観を持った上で、広告の質を高めることも大切です。広告は企業の個性の発露であり、だからこそ生活者の心を捉えるアイデアや表現が重視されますが、視聴者を不快にさせるような行き過ぎた表現は好ましくなく、社会全体と調和していなければなりません。
 企業としての社会的な責任を果たしつつ、広告のクオリティーを高めていく。これをJAAの活動の大きな柱に据え、広告主の皆さまとともに取り組んでまいります。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。