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電通CMクリエイター 見市沖のこれからのCMの話をしよう【城殿裕樹氏】(第2回/全2回)


ホスピタリティーがプロの仕事を作る

電通のCMクリエイター・見市沖氏がCM制作の最前線で活躍するクリエイターと、これからのCMのあり方を探る連載企画の第6回。今回はトライグループ『家庭教師のトライ』や、竹野内豊出演のMobility Technologies『GO』など数々のヒットCMを手掛けるプロデューサーの城殿裕樹氏を迎え、質の高い作品を生み出すために大切にしている考え方、広告業界の課題解決に向けた取り組みなどについて語っていただいた。(収録:10月6日)
【 CM INDEX 2022年11月号に掲載された記事を2回に分けてご紹介します。(第2回/全2回)】

城殿裕樹氏
株式会社KEY pro
CEO チーフプロデューサー
2018年4月、電通クリエーティブXから独立し、株式会社KEY pro設立。テレビCM・ウェブ動画を中心に、映像制作全般のプロデュースを行う。クライアントが抱えるさまざまな制約の中で、ベストなソリューションを提案し、質の高いアウトプットへつなげる。クライアント・広告会社の垣根を超えて、パートナーとしてのプロダクションワークをモットーとする。

見市沖氏
株式会社 電通 zero
クリエーティブ・ディレクター/コピーライター/CMプランナー
2006年電通入社。近作は、でで出前館、ポケモン愛と自由、タイムツリーはじめました、ポッキー、パズドラ。TCC新人賞、ACC賞、国際PRゴールデンアワードなど受賞。出前館は2021年度作品別CM好感度1位。
— せっかくチャレンジするなら海外スタイルのプロダクションを
見市:独立の際にフリーランスを選ばなかった理由は。
城殿:クラフトワークに集中して純粋に良いものを作りたいと考えると、共通の思いを持つ仲間とともに取り組んだ方が確実だと思ったんです。また、せっかくチャレンジするなら海外のようなスタイルのプロダクションを作りたいと思って。20代の頃に頻繁に訪れた海外ロケで現地のプロダクションのオフィスやそこで働く人たちを見た際に日本と異なるスマートな風景に衝撃を受けました。
見市:海外と日本の広告業界を比較して、根本的な違いは何だとお考えですか。
城殿:広告会社と制作会社の受発注の関係でしょうか。
見市:日本は基本的に広告会社のCDからプロデューサーへ発注が来ますよね。そしてプロデューサーが監督をスタッフィングする。城殿さんのnoteの記事で海外は広告会社から監督に直接発注して、監督がプロデューサーを指名する流れなのだと知りました。
城殿:その文化に起因してか、海外では“下請け”という認識が薄く、広告会社も制作会社もそれぞれプロフェッショナルとして対等なパートナーシップのもと作品に向き合っています。監督はレップという会社に広告会社への自身の売り込みを代行してもらうことが多いのですが、こちらもそもそも監督のフィーが高いことや、年間を通した大きな仕事の契約が基本になっているからこそ成立するシステムのようにも思いますね。
— 社員のモチベーションを保つには構造だけでなく愛情も大切
見市:日本の広告制作業界の課題とは。
城殿:やはり、この業界への志願者が減っていることでしょうか。たとえ業界に入ってもひたすら資料を集めたり、プランナーの企画を金曜日の夜中まで待っていたりと地味な業務が多く、華やかなイメージとのギャップにショックを受けて離職してしまう場合もあるようです。
見市:KEY proでは何か取り組みをされていますか。
城殿:PMの業務負担を軽減するために企画作業を外注しているほか、趣味や旅行の費用を補助することでPMがプライベートを十分満喫できるようにしています※1。思わぬところで趣味が仕事につながるケースも多いので、社員にはプライベートを楽しむよういつも伝えています。
見市:広告の作り手が人生を楽しんでいないと、生きる喜びや豊かな表現をシェアできないように思います。
城殿:また最近のPMはマルチタスクで膨大な業務量を抱え撮影当日までに疲弊してしまう上、撮影準備期間の短縮化など効率的な撮影が求められます。こうした状況から撮影のプロフェッショナルである助監督に現場を回していただいた方が良いと考え、KEY proでは基本的に助監督をアサインしています。
見市:以前、制作担当のスタッフから「自分たちの仕事は100点じゃないと怒られる」と聞いて切なくなりました。
城殿:減点法でジャッジされる傾向はあると思います。彼らが一緒に仕事をするのはプロの方ばかりですし、PMは特にフリーランスで働く技術スタッフとの関わりが深いため、あらゆる仕事において彼らの人生を背負う責任を感じなければいけない。若手の多いPMにとっては経験や年齢と、果たすべき責務との乖離が激しいんですね。高水準のコミュニケーション能力と処理能力が求められるので、もっとベテランの世代がPMとして活躍してもいいと思うんです。KEY proでは業務の責任に見合うよう、PMへの給与をどの制作会社よりも高い額に設定しています。
見市:社員に寄り添う仕組みがKEY proの良さですね。
城殿:個人的には構造や仕組みだけでなく、愛情が大切だと思います。設立5年目ですが、新卒入社の社員を含め、うれしいことに会社が嫌で辞めた人はいないんです。
見市:自分が大切にされていると思えるかどうかは、モチベーションに直結しますね。
城殿:社員一人ひとりに声を掛け、何気ない会話でも責任感や期待感を言葉にして伝えるよう心掛けています。
※1. 毎月2のつく金曜日が休日になる『キーホリ制度』や、趣味、旅行、映画鑑賞の費用を補助する手当のほか、ベビーシッター費用の補助など、ワークライフバランスを推進する福利厚生制度を設けている。
— クラフトワークの魅力を伝え広告制作業界をより良いものに
城殿:プロデューサーがディレクターを育てるという文化を現代に合う形で再び作れないかと、若手クリエイターを対象とした『トランポリン』※2というマネージメント部門を作りました。安定感のあるベテラン監督が指名されやすいといった現状に対して、プロデューサーが優秀な若い監督をアサインして売り込めば、良い相乗効果が生まれると考えたんです。これはある種の投資でもあり、監督がメジャーになったときにKEY proに返してもらえればと思って。
見市:クライアントや広告会社からすれば実績の少ない監督にCMをお任せするのは勇気がいりますから、城殿さんが太鼓判を押しているスタッフなら安心感があります。どんな名ディレクターにも売れるきっかけとなった仕事が必ずありますし、そのときはきっとCDやプロデューサーがなんらかの形で後押ししてくれたはず。
城殿:本格派な映像を得意とする監督のもとに若い人がADとして参加して勉強するなど、監督同士の横のつながりをプロデューサーが作ってもいいと思います。
見市:横のつながりといえば、『Beyond』というプロデューサーユニットで活動されていますよね。
城殿:ギークピクチュアズの小澤祐治さん、AOI Pro.の山田博之さん、太陽企画の泉家亮太さんと私の4人で2018年に立ち上げました。活動方針は2軸あり、ひとつはプロデューサーの可能性を広げること。映像制作だけでなく映画やイベント、もっといえば飲食店をプロデュースしてもいいなと思ったんですね。もうひとつはモーニング座談会で社員同士の交流を深めたり、カメラマンやディレクターが情報交換する場を設けたりと広告業界の活性化に向けたさまざまな企画を行っています。
見市:課題感を共有しながら、自由に話し合える場所があるっていいですね。
城殿:何気ない会話から働き方を改善するヒントが見つかったり。業界内のつながりが大切だと実感しました。
見市:城殿さんは映像制作のプロデューサーとして目の前の案件に丁寧に取り組むだけでなく、業界を広い視野で見つめて新しいことに挑戦し続けているように思います。今後さらに実現したいことや挑戦したいことはありますか。
城殿:質の高い作品を作り続けることに加え、50歳を迎えるまでの10年で、広告制作業界の活性化に貢献することです。労働環境の改善や若手スタッフのモチベーションアップなどハード、ソフト両面の改革が必要ですが、自分を育ててくれた業界への恩返しでもありますし、何よりも私自身がこの仕事を心から楽しんでいるので、クラフトワークの魅力をさらに広く伝えていければと考えています。
※2. 映像ディレクターの渡部亮平氏や小林大祐氏らが所属。初めて独立するクリエイターのマネージメント料は3%に設定するなど、次世代のクリエイターを支援し、広告業界の活性化に向けた施策として注目されている。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。