Creator Interview 福里真一氏×伊藤直樹氏×山田百音氏(前編)
2022年上半期 CM好感度ランキングに見る
「ウヒョー!」となる広告の魅力
(収録:2022年7月13日)
『広告ウヒョー!』はこちら(YouTubeに移動します)
※後編は9月1日(木)に公開
福里 真一氏
株式会社 ワンスカイ
クリエイティブディレクター
CMプランナー/コピーライター
1968年鎌倉生まれ。一橋大学卒業。これまでに2000本以上のCMを企画・制作。最近の主な仕事にサントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」、マクドナルド「夜マック店長」、湖池屋『スコーン』、東洋水産『マルちゃんZUBAAAN!』、ユニクロ「LifeとWear」、メルカリ「メゾンメルカリ」など。
山田 百音氏
株式会社サイバーエージェント
広告営業マネージャー
1993年東京生まれ。横浜国立大学卒業。2016年サイバーエージェントに新卒入社し、デジタルを中心とした広告の営業マネージャーを担当。ファッション・化粧品・消費財などのグローバルメーカーのブランディング広告に従事する。とあるきっかけで「広告ウヒョー!」に参画。
伊藤 直樹氏
株式会社パーティー
チーフ クリエイティブ オフィサー
ファウンダー
1971年静岡県生まれ。早稲田大学卒業。W+K Tokyoを経て、ナラティブとテクノロジーの力で未来の体験をつくるクリエイティブ集団「PARTY」代表。WIRED日本版クリエイティブディレクター、神山まるごと高専カリキュラムディレクター、京都芸術大学教授も務める。
山田:私はデジタルを中心とした広告営業の仕事をしています。福里さんや伊藤さんのようなクリエイターではありませんので、“広告好きの若手”という立場で感じたことをお伝えしながら、さまざまな広告を紹介できればと考えています。
伊藤:今はまさにデータサイエンスの時代です。ソーシャルメディアの登場によって個人の意見が強くなり、非常に主観的な意見でも多くの人が影響されるということがたびたび起こっています。そこで物事をより客観的に見るべきだという観点から、データの読み解き方にこそ価値があると盛んにいわれるようになった。CM総合研究所さんは何十年も前から「CM好感度」という形で生活者の声をデータ化し続けていて、一方で広告批評はプロの目線から文化の中にある種の文脈を生み出してきた。ですが広告批評が2009年に休刊という形で幕を閉じてしまってからは、広告という文化において片方の車輪がなくなったような状態でした。両輪がなければ文化は豊かに育ちませんので、広告ウヒョー!※1を始めることで車輪を付け直してみたいと思ったんです。
サントリー食品インターナショナル『ボス』の「宇宙人ジョーンズ」シリーズをはじめ数々のヒットCMを手掛けているCMプランナーの福里真一氏と、クリエイティブ集団「PARTY」の代表を務める伊藤直樹氏、広告営業を担当する山田百音氏の3人によるYouTubeのトークチャンネル。「ウヒョー!」と心を動かされた広告について、キャッチコピーといった “言葉” にフォーカスして解説する。これまでにKDDI『au』、アイフル、リクルート『タウンワーク』、大塚製薬『カロリーメイト』のCMなどを取り上げたほか、新聞やデジタル広告、屋外広告、TCC賞をはじめ注目の広告賞の受賞作品などを紹介。
伊藤:僕もやっぱりauはすごいと思っています。福部さんの言葉をお借りすると「世界線」という表現になりますが、異なる世界が同時に存在しているような感覚になれる広告で、こんなに明るい世界がどこかにあるのではないかと思える。「みんながみんな英雄。」というコピーの通り、「au」と「英雄」をかけて一人ひとりが主人公であることを描いていますが、登場するのは偉人というよりも人間味があり、誰もが自己投影のできるキャラクター像である点など、CMとしてのコンセプトが素晴らしい。三太郎や福里さんの『ボス』のようにシリーズを長年続けるのは、私には到底できない芸当です。ボスはトップ10の中で放送回数が最も少なく、効率でいえば1位じゃないですか。
福里:サントリーのボスの「宇宙人ジョーンズ」シリーズ※4は開始当初より30秒CMをメインに制作しています。放送回数よりもブランドのメッセージや世界観を伝えることを優先すべきだと広告主の方が判断されているんですね。でも、CM好感度だけじゃなくおかげさまで売り上げも右肩上がりに伸びているようですよ。
山田:福里さんが手掛けられているUNIQLOのCMは日常感がクリエイティブに落とし込まれているので、そこに共感性や親近感が生まれていると感じます。一方でチープにならないよう、洗練された印象やUNIQLOらしさも保ちつつ絶妙なバランスで展開されています。
私が気になっているのは日清食品さんのCMで、とにかく独特な表現の作品が多いですよね。大抵の広告には起承転結があり、ある程度展開を想像できるものが多い中、日清食品さんの広告は予測不能で、いわば“事故感”があります。最初は何が起きているのか分からないのですが、それが広告として機能している。またSNSで話題になったコンテンツを応用したり楽曲にインパクトがあったりするものも多いです。なかでも『カップヌードル MISO』※5はORANGE RANGEさんのMVを使ったユーモラスなCMで、聞きなじみのある楽曲だったので思わず振り返ってしまいました。CMソングはいつの時代も強いですね。
福里:CM草創期から“歌もの”と呼ばれる広告は王道中の王道です。日清食品さんのCMを見て思うのは余計な小細工をせず、あえて直球で「食べてください」「売れています」と言い切ることが今の時代に合っているのでしょうね。うそじゃなく、本音を伝えている感じ。そのストレートなメッセージを最も感じよく伝える方法が歌に乗せることなのだと思います。
伊藤:口の端にのせる手法は刷り込みに近い効果がありますよね。僕もシャワーを浴びながら思わず口ずさんでいることがよくあるのですが、歌は誰もが持っている幼児性の部分、つまり本能に近いところに作用する。「♪愛がいちばん アイフル~」と演歌調の歌で締めるアイフルのCMは最高にバカバカしくて大好きです。僕は京都芸術大学で講義をしているので若い世代とカラオケに行く機会もあるのですが、演歌を歌う子が意外と多い。祖父母や両親から自然と受け継がれている名曲があって、演歌が若者と縁がない訳ではないと気付きました。「愛がいちばん。」というコピーも、あらためて考えてみると当たり前のことじゃないですか(笑)。それを演歌調に歌うことでどこかシニカルなニュアンスがCMに加わる。こんな企画を通せる山崎隆明さんは素晴らしいですし、それを受け入れたアイフルさんが素敵だなと思います。
「三太郎シリーズ:進め! そっちだ!」篇(2022年1月1日オンエア開始)
松田翔太が桃太郎、桐谷健太が浦島太郎、濱田岳が金太郎を演じる「三太郎」シリーズは2015年元日にスタート。多彩なCM展開で、同年から2021年度まで7年連続で年間のCM好感度総合1位に輝いている。
※3.アサヒビール/アサヒ生ビール
「おつかれ生です。・夕暮れのテラス」篇 (2022年4月1日オンエア開始)
「おつかれ生です。」というコピーのもと缶商品を訴求するCMを昨年9月より展開。竹内まりやの『元気を出して』をBGMに新垣結衣が自宅で商品を飲みながらくつろぐ姿や飲食店での回想シーンを描いた。
※4.サントリー食品インターナショナル/ボス
「宇宙人ジョーンズ・漫画家」篇(2022年3月8日オンエア開始)
トミー・リー・ジョーンズ演じる“宇宙人ジョーンズ”がさまざまな職業につく2006年開始のシリーズ。今年上半期は漫画家役の役所広司のもとでアシスタント役の杉咲花らとともに原稿を仕上げるCMなどがヒットした。
※5.日清食品/カップヌードル MISO
「MISO食べたい」篇(2022年3月9日オンエア開始)
ORANGE RANGEの『SUSHI食べたい feat. ソイソース』の替え歌で「♪MISO食べたい3種の味噌使った」といった歌をバックに、商品を食べながら踊るラーメン屋の大将など描いたアニメーションCMだ。