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アドバタイザー×CMクリエイター パナソニック コネクト株式会社(前編)


企業を強くするパーパスを共創
パナソニック コネクトの意志を伝えるコミュニケーション戦略

パナソニックグループの事業会社制に伴い今年4月に発足したパナソニック コネクト株式会社は「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」という企業としての存在意義であるパーパスを表現したCMを放送した。本対談では同社のカルチャー&マインド改革などを担当する執行役員 常務 CMOの山口有希子氏とパーパスコミュニケーションを手掛ける株式会社 電通の佐々木康晴氏、I&CO Tokyoの高宮範有氏に、パーパス策定の経緯やCMの狙い、社内外から共感を得るパーパスブランディングについて語っていただいた。
(収録:2022年7月7日)
【 CM INDEX 2022年8月号に掲載された記事を2回に分けてご紹介します。(前編)】
 ※後編は8月30日(火)に公開

山口 有希子氏
パナソニック コネクト株式会社
執行役員 常務
CMO

パナソニックのB2Bソリューションビジネスを担うパナソニック コネクト株式会社のマーケティングおよびデザイン部門の責任者として、国内外のマーケティング機能を強化しつつ、ビジネス改革・カルチャー改革に取り組んでいる。複数の国内企業・外資系企業にてマーケティング部門管理職を歴任。日本アドバタイザーズ協会 デジタルメディア委員会 委員長。一般社団法人Metaverse Japan 理事。

佐々木 康晴氏
株式会社 電通
執行役員
チーフ・クリエーティブ・オフィサー

1995年株式会社 電通に入社。コピーライター、インタラクティブ・ディレクター、クリエーティブ・ディレクターなどを経て、2011年から2013年まで電通アメリカ(ニューヨーク)に出向。帰国後は第4CRプランニング局長などを経て現職。カンヌライオンズ、D&AD賞、クリオ賞をはじめとした国内外の主要な広告賞を多数受賞し、審査委員長経験や国際キーノート講演経験も多い。

高宮 範有氏
I&CO Tokyo
共同代表


2019年7月にI&CO Tokyoを立ち上げ、共同代表に。新規事業開発とそのブランディング、体験設計を得意とする。これまでにUNIQLO IQ、StyleHintのコンセプト・UXデザインをはじめ、メルカリ上場時のコーポレートブランディング、P&G/PANTENE「#この髪どうしてダメですか」などを手掛ける。合わせてスタートアップの事業拡大を数多く担当し、広報戦略立案にも携わる。


— パーパス策定、およびCM制作の経緯について
山口:今年4月、パナソニックグループの事業会社制への移行に伴い、コネクティッドソリューションズ(CNS)の事業を引き継ぐ形でパナソニック コネクトが発足しました。当社はBtoB向けのソリューション事業を展開しておりますので、直接のお客さまは法人企業ですが、ステークホルダーも含めた多くの方々に当社の存在やカルチャー&マインド改革などの取り組みを認知いただくことが重要です。そこで企業としての存在意義であるパーパスを策定し、新会社設立のタイミングより記者発表会やテレビCM、新ブランドロゴの発表、ホームページの刷新など、さまざまなコミュニケーションを展開しました。ローンチ時の施策ではCMにフォーカスいただくことが多いのですが、CMはキャンペーンの一部でしかなく、人事、教育、マーケティング、IT施策、プロセス設計など全部門で事業戦略を見直すとともに、当社のコアバリューを策定した上でパーパスを設計しています。こうした一連の活動は2017年のCNSの発足時より社長兼CEOを務める樋口泰行の意志によるところが大きく、「強い企業経営の根幹には健全なカルチャーが必要」という信念のもと、この5年間全社一丸となってカルチャー&マインド改革を中心とした企業変革に取り組んできたんですね。改革の目的をシンプルに言うと、我々が「正しく事業をする」ためです。どんなに優れた人材がいて正しい戦略があっても、健全なカルチャーがなければ正しく運用されません。またグローバル企業として事業を展開する上で、社内ではなくお客さまの“現場”や世界へ意識を向けることも目指しています。
高宮:このたびのパーパスプロジェクトは昨年の春からお手伝いさせていただいています。パナソニック コネクトに関わるすべての方が同じ思いで新会社としての決意表明ができるよう、I&COの共同創業者であるレイ・イナモトとともに「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」というパーパスと、その背景を補足する“Our Story”というステートメントの策定を行いました。その後パーパスを対外的に発信するに当たり、佐々木康晴さん率いる電通の皆さんにも加わっていただき、3社が合同チームとなってプロジェクトに取り組んでまいりました。
佐々木:パーパスの決定後にお声掛けいただいたので、いわゆる広告キャンペーンのご提案を想像していたのですが、電通チームが考えた結果だけをお伝えするといった関わり方ではなく、パナソニック コネクトが最も良い形でローンチされるためには「そもそも何をすべきか」というフェーズから、3社でフラットに話し合うことができました。パーパスがインナーだけでなく顧客や一般の方々にも浸透し、共感されるにはどうしたらよいか。3カ月ほど議論を重ねる中で、パナソニック コネクトの存在意義を伝える手段として“アンセムムービー”と呼ばれる90秒の映像を作ることが決まりました。
山口:この3社合同チームのミーティングは毎回面白かったですよね(笑)。“チームコネクト”と呼んでいたのですが、優れたクリエイターの皆さんそれぞれが当社のローンチを“自分ごと”と捉えてくださり、心強かったです。なかでもWhyとWhatについては議論を重ねましたね。
佐々木:BtoB企業の場合、事業領域が一般の方に見えにくいためコミュニケーション活動では「何をしているか」というWhatを伝えることが王道です。それも誠実な方法ですが、今回の新会社設立のタイミングでは「“なぜ”存在するか」というWhyの部分を広く発信することが重要だと考え、「Whyでいきましょう」とレイさんと一緒に提案させていただきました。
— CM制作で注力されたポイントとは
高宮:BtoB広告の手法を確認すると、事業紹介や信頼感の醸成といった似通った表現が少なくないと感じたんですね。パナソニック コネクトのパーパスブランディングは非常に視座の高い取り組みですので、CM表現も一般的な文法とは異なるものにすべきだと考えました。またCMを通してパーパスが認知されるだけでなく、応援されるものにしたいという思いがありましたので、いくつかの案の中からダンスの企画が選ばれました。
佐々木:パーパスを伝えるための映像ですが、一般の方にパーパスをそのまま説明しても腑に落ちにくいと考え、理解をサポートする言葉として「かなえよう。」というキーワードを作りました。そしてパナソニック コネクトが注力されているサプライチェーンをCMの舞台とし、売り場や工場、流通の現場がシームレスにつながることで、ひとりの少女が諦めかけていた売り切れの靴下が手に入るという物語を設定しました。AIやテクノロジーを活用した現場の業務最適化を通して、ひとりでは「できない」と諦めていたことがどんどんできるようになる。一人ひとりの仕事がコネクトすることで「かなう」の連鎖が起こり、誰かの幸せにつながる。こうしたポジティブな連鎖が直感的に伝わるよう、ワンカット撮影によるダンスのリレーや“光る廊下”、“動く倉庫”といった楽しげな表現を軸にストーリーを組み立てていきました。
山口:当社では公共サービスや生活インフラなど幅広い領域の事業を展開しておりますが、なかでもパナソニックが昨年買収したBlue Yonderを中心としたサプライチェーン・ソフトウェア事業に力を入れています。CMで描いたオートノマス(自律的な)サプライチェーンは私たちが目指している世界そのものなんですね。社内では“現場プロセスイノベーション”と呼んでいますが、我々がお客さまにソリューションを提供して現場のプロセスを変革していくことで人々の願いがかない、誰もがハッピーに過ごせるサステナブルな社会が実現する。CMではこうしたムーンショットを堅苦しくならず楽しく伝えることを意識しました。またお客さまのニーズを把握して製造や流通といったさまざまな現場の連携を図るには、テクノロジーが重要です。そこで当社のR&Dチームにストーリーメイキングの段階から加わってもらい、CMに登場するドローンやロボティクスなどのテクノロジーをファンタジー的な演出にせず、実際に使用可能な技術として描いています。そして当社のカルチャー&マインド改革ではDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)に力を入れているため、CMのキャスティングでは人種やジェンダーなどの多様性を重視し、ハンディキャップをお持ちの方にも登場いただきました。また、意図せずとも何気ない表現が差別や偏見を助長する可能性がありますので、日本では一般的でないかもしれませんが、専門家の方にカルチャーチェックをお願いするなど、表現のディテールに至るまで細心の注意を払っています。


【 パナソニック コネクトの事業概念図 】
ビジネスにおける多様な“現場”のプロセスを改革する“現場プロセスイノベーション”を通してパートナー企業の経営課題を解決することで社会に貢献し、「サステナブルな社会」「生活者のウェルビーイング」の実現へ向けて歩み続けるという同社の意志を表現している。

パナソニック コネクト「かなえよう。」篇(2022年4月5日オンエア開始)
「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」という同社のパーパスを表現したCMで、サプライチェーンの自律化をテーマに展開する。人とAI・テクノロジーの融合によって売り場や工場、流通の現場がシームレスにつながり、目当ての赤い靴下が売り切れていることに残念がる少女の願いをかなえる様子をワンカット撮影によるダンスのリレーを通して描き、「かなえよう。」のコピーで締めくくった。

【制作スタッフ】
広告会社:電通/I&CO 制作会社:電通クリエーティブX
エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター:佐々木康晴/レイ・イナモト
シニア・クリエイティブ・ディレクター:眞鍋亮平 アートディレクター:鳥海雅弘
プランナー:椿遊 コピーライター:小川祐人 ストラテジー:近藤まり子/金山大輝/六車亮
エンゲージメント:横田佳祐 クリエイティブ・プロデューサー:清水敦之/三浦克矢
エグゼクティブ・プロデューサー:春田寛子 プロデューサー:Maki Osada/内田宏幸
ディレクター:田中秀幸 カメラマン:Ben Goodman DIT:Aashish Gandhi
美術:Ron Beach VFX:高橋勇人 スタイリスト:Bobbie Mannix
ヘアメイク:Dominie Till/Vito Trotta 振付:Joe Brown キャスティング:Taylor Casting 
音楽制作:Black Cat White Cat Music ナレーター:高橋ユキノ
SE:笠松広司 カラリスト:Karol Kaczorowski オフラインエディター:小林真理 
オンラインエディター:泉陽子 ミキサー:丸井庸男
プロダクション・マネージャー:火ノ見崇/萬文哉 ビジネス・プロデューサー:岩城元/長谷雄介 
テスト撮影協力:井本直樹/振付稼業air:man/末広豪
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。