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電通CMクリエイター 見市沖のこれからのCMの話をしよう【緑川徹氏】(第1回/全2回)


挑戦を続ける姿勢が愛される音楽を作る

電通のCMクリエイター・見市沖氏がCM制作の最前線で活躍するクリエイターと、これからのCMのあり方を探る連載企画の第5回。今回の対談相手はKDDI『au』の「三太郎」シリーズや妻夫木聡が“ジャンボ兄ちゃん”を演じる『ジャンボ宝くじ』のCMなど数多くのヒットCMを担当する音楽プロデューサーの緑川徹氏。映像作品における音楽の役割や、音楽を作る上で大切にされている考え方などを語っていただいた。(収録:3月7日)
【 CM INDEX 2022年4月号に掲載された記事を2回に分けてご紹介します。(第1回/全2回)】
※第2回は4月28日(木)に公開

緑川徹氏 株式会社メロディー・パンチ 代表 音楽プロデューサー
1996年からCM音楽に携わり、2005年にメロディー・パンチ設立。手掛けた主なCMにau、SoftBank、KIRIN、サッポロビール、SUNTORY、アサヒ飲料、大塚製薬など。映画は『ハルチカ』(17/市井昌秀監督)、『羊の木』(18/吉田大八監督)など、ドラマは『誰かが、見ている』(20/三谷幸喜作)、『おかえりモネ』(21/安達奈緒子作)など。

見市沖氏 株式会社 電通 zero クリエーティブ・ディレクター/コピーライター/CMプランナー
2006年電通入社。近作はタイムツリーはじめました、ポッキー、パズドラなど。TCC新人賞、ACC賞、国際PRゴールデンアワードなど受賞多数。「世界に愛されるブランドをひとつでも多く増やす」がモットー。
— CMや監督の世界観に合わせてアサイン あえて化学反応を狙うことも
見市:肌感覚ですが、最近はストーリー仕立てのCMよりも音楽を中心にしたCMの方が視聴者に響きやすいように感じます。KDDIの「三太郎」や「UQUEEN」シリーズ、「♪ニッシンボー」と歌う日清紡の企業CMなど、誰もが知っているメジャーなCMの音楽をいくつも手掛けられている緑川さんと「CMにとっての音楽」についてお話しできればと思い、今回お声がけさせていただきました。
緑川:ありがとうございます。以前、見市さんとご一緒した浜田雅功さんが歌い踊る『出前館』※1のCMは、あの歌が何度も流れたことで市民権を得たような気がしますね。
見市:以前に比べ“歌もの”のCMの依頼は多いですか。
緑川:コロナ禍の影響で在宅ワークにシフトした時期は増えたかもしれませんが、近年お仕事としていただく件数にはあまり変化がないように感じます。
見市:そうなんですね。基本的なこととなりますが、読者に向けて、CM音楽を制作する流れをお話いただけますか。
緑川:私の場合は監督からお声がけいただくことが多くて、次がクリエイティブディレクターからのご指名ですね。打ち合わせで世界観やアイデアをうかがってイメージに合う曲を探したり、「アーティストと組みたい」「こんなキャッチーなコマソン(コマーシャルソング)を作ってほしい」といった要望を聞いてスタートしたり。
見市:コマソンのメロディーは、いつもどのように考えられるのでしょうか。口ずさみながら考えることが多いですか。
緑川:そういう場合もありますし、作家さんが考えてきたメロディーを現場で思い浮かんだ内容に調整するケースもあります。『楽天モバイル』※2のCMソングはレコーディングの際に鼻歌で考えたもので、外国人のシンガーに「ブルージーな、こんなメロディーで」とその場でお願いしました。
見市:「とにかく耳に残るもの」といったあいまいな発注が来ることもありますよね。その場合、作家さんや歌い手さんはどのように決めるんですか。
緑川:基本的にはCMや監督の世界観に合いそうな人をアサインします。また、その作家さんが得意とするテイストとは異なりますが、チャレンジしたら意外とはまりそうなジャンルをお願いして化学反応を狙うことも多いです。
見市:選曲のお話もうかがいたいのですが、最近はデジタル化された楽曲の中から選ばれているのでしょうか。
緑川:デジタルを活用することがほとんどですが、会社の資料庫には2、3万枚ほどCDを保管しています。「あのアルバムの何曲目」「ジャケットがオレンジ色のCDに入った曲」と覚えているものの方が、思い出しやすいんですよね。
※1. 2020年7月に開始したCMで、2021年度(2020年11月度〜2021年10月度)の作品別CM好感度で総合1位に輝いた。浜田雅功が『スーダラ節』のメロディーで「♪出前がスイスイスーイ」などと歌い踊る内容。
※2. マゼンタ色の空間で、米倉涼子がサービスの特長をプレゼンしたり、川平慈英扮する“楽天カードマン”らにメリットを伝えたりするCMが好評価を獲得。「♪楽天モバイル」というパワフルな歌声でサービス名を印象づけた。
見市:CM音楽制作のお仕事を始められたきっかけを教えていただけますか。
緑川:20代前半までバンド活動をしていましたが、その後CM音楽制作のプロダクションに制作アシスタントとして入社しました。そこでプロのレコーディング技術やサウンドのクオリティーを目の当たりにし、アマチュアとの違いに衝撃を受けたんです。当たり前ですが、音楽が映像にぴったりはまっていることにも驚きました。
見市:そのときに映像と音楽を組み合わせる面白さに目覚められたのですね。
緑川:もうひとつ衝撃的だったのが、サウンドを作るプロはクラシックからジャズ、ロック、サウンドトラック、過去の有名ポップスまでありとあらゆる楽曲を知った上で、さらに音楽著作権の知識も持っていること。自分の音楽知識の偏りにも気付かされ、これが“プロの音楽人”になりたいと思ったきっかけかもしれないですね。知識が追いつかないと話にならないので、会社の若いスタッフに「たくさんの曲を聞くのも仕事だ」とよく話しています。
見市:制作アシスタントとしてキャリアをスタートされた緑川さんが、プロとして仕事を続けていけそうだと感じられた転機となったお仕事ってありましたか。
緑川:いくつもありますが、強いて挙げるなら15年ほど前に担当した『トクホン』※3のCMでしょうか。「パリコレ」のダジャレで「ハリコレ」をキーワードにしたものです。
見市:湿布を貼ったモデル風の女性がファッションショーのようにランウェイを歩くシーンに「♪ハッテル ハッテル」と連呼する歌が流れるんですよね。めちゃくちゃ好きでした。
緑川:ありがとうございます。浜崎慎治監督とご一緒した作品で、友人の作家が歌った歌をピッチシフターで低い声に変えてみるなど、かなり自由に作らせていただいたんです。このCMがACCでファイナリストに入ったり、『広告批評』で年間のベスト10に選ばれたり、各方面から評価されたことで、仕事の幅が広がったように思います。
※3. 「♪ハッテル ハッテル」などと連呼する歌をBGMに、エプロンやかっぽう着などを身に着けた女性がファッションショーのランウェイをさっそうと歩き、肩や腰に貼った商品を披露するCM。2007年から放送された。
— 客観的に判断せず、耳の記憶や感性に嘘をつかないことを大切に
見市:緑川さんにとって「ヒットするCM音楽の法則」ってありますか。特にサウンドロゴなどはいくつも案を作られると思いますが、その中から「これが一番良い」と思う決め手があれば教えてください。
緑川:非常に感覚的なものなので、自分ではよく分からないんです。もしあれば教えてほしいくらい(笑)。私自身はアイドル全盛期だった子どもの頃にはJ−POPも聞きましたが、成長してからはスラッシュメタルやハードコア、ノイズ系といったマニアックなジャンルに突っ走って、メジャーな音楽とは無縁に育ってきたんです。みんなが好きなものをあえて聞かないことに美学を感じていた。
見市:今となっては、世の中の人が一番多く聞いているのは緑川さんの作った音楽なのに(笑)。
緑川:不思議ですよね、本当に。
見市:CMはご自身が好きな世界の真逆というか、世俗的で多くの人に分かりやすいことも求められますが、趣味と仕事は切り離して考えていらっしゃるのでしょうか。
緑川:それがそうでもなくて。だからこそモチベーションを保っていられるのだと思います。
見市:ということは、緑川さんの作るメジャーな音楽にはマニアックな感性が生かされているのかもしれませんね。世の中にとってキャッチーなものを作り出すというより、耳や身体の記憶といった主観的な感覚を大切にされているのかなと感じました。
緑川:たしかに言葉にするならそういうことですね。メロディーを選んだり直したりするときには、客観的に考えるというよりも「こっちの方がピンとくるね」「ここを変えるとキャッチーになる」といった感覚で判断している。自分の感性に嘘をつかないことが音楽制作の軸になっている気がします。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。