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電通CMクリエイター 見市沖のこれからのCMの話をしよう【明円卓氏・後編】第1回/全2回


人との出会いと誠実さを仕事の軸に

電通のCMクリエイター・見市沖氏がCM制作の最前線で活躍するクリエイターと、これからのCMのあり方を探る連載企画。第4回の対談相手は、過去にKDDI『au』の「意識高すぎ!高杉くん」といったCMを手掛けたほか、アーティストのMV、コーヒー店『JANAI COFFEE』の運営など、幅広い領域のコミュニケーションを得意とする明円卓氏。後編では企画を立てる際に大切にしている視点や、広告作りへの向き合い方、今後挑戦してみたいことなどをお聞きした。(収録:6月18日)
【 CM INDEX 2021年9月号に掲載された記事を2回に分けてご紹介します。(第1回/全2回)】
 ※第2回は8月30日(木)に公開
— “普通の人の目線”が大切 新たな才能からも吸収したい
見市:企画を立てるときに大切にしている考え方を聞かせてもらえますか。
明円:やっぱり普通の人に伝わるかが大事だと思います。実家の母親に見せるってよく言いますよね。広告業界以外の人にひと言で分かってもらえるか。あとは誇れる仕事であることも大切。「こんな面白い企画やってるんだ」って。
見市:誇れる仕事っていいね。話は変わるけれど、社会派なメッセージを世の中に投げかけたいって思うことはある?
明円:思いますよ。
見市:世の中の気分を背負ったまま社会課題に真っ正面から立ち向かうより、どこかかわいらしく見せるとかユーモラスなアプローチの方が得意かなと思って。
明円:そうですね。壮大なメッセージを世に打ち出すというよりは、普通の生活者に向けた仕事が多いので。でも例えば多様性やジェンダーの視点で表現をチェックする場合も「いまどき、これはまずくないですか?」って感じるためには一般の感覚が必要だなと思うんですよね。
見市:ターゲットだけじゃなくて、社会的な視点で表現を見直すことが大切になるよね。
明円:あくまでも広告は企業のものなので、そうなりますね。企画の立て方で言うと、最近は結構TikTokからネタを集めています。CMってものすごく小さいことの方が訴求力があるというか、広がるじゃないですか。パーソナルな出来事やささやかな心の動きとか。TikTokにはそういう領域のインサイトが山ほどある気がします。
見市:ちょっとした遊び心だとか、恋する気持ちとか。そういうものだらけだよね。
明円:ずっと見ていると世の中にはこんなに面白いことを考える人がたくさんいるんだなぁって驚かされます。
見市:ほかに最近気になるコンテンツや、嫉妬する仕事ってありましたか。
明円:同期の花田礼くんが担当した分割画面で見せる『カップヌードルシリーズ』のCMですね。彼より面白いものを作れているのかな、頑張らないとって思いました。あとは広告以外の作品や作り手に憧れることが多いです。
見市:広告以外ではどんな作品が印象に残っている?
明円:Vaundyさんの『東京フラッシュ』のMVが気になっています。これを手掛けたMIZUNO CABBAGE※1さんっていうディレクターが2000年生まれなんですね。このMV自体はそんなにCGを詰め込んだものではないんですけど、この方のVFXやCGの世界観がものすごく格好いい。
見市:たしかTwitterで見たことがあるよ。こういう才能って広告の文脈からは生まれにくいよね。
明円:20歳くらいでCGアーティストのチームを立ち上げていて、いよいよこの世代が来たかと。でも彼らを脅威に捉えるというより、若い才能と一緒に仕事ができたらどんな面白いことができるだろうって前向きに考えています。
※1. 2000年生まれのVFX・CGディレクター。2020年3月に新世代のクリエイティブチーム「UNDEFINED」を設立。CGを使用した空間演出を得意とし、Vaundyをはじめ数多くのアーティストのMVなどを手掛けている
— クリーンな広告作りとみんなが楽しめる座組みを目指す
見市:さっきの質問に近いんだけど、広告作りや仕事の進め方で大事にしていることってありますか。
明円:作り方で言うと、周りの人に気持ち良く仕事をしてもらえるよう心掛けています。スタッフにはなるべく週末は休んでもらいたいし。資料を夜中に仕上げないで、翌朝でいいですよって無理をさせないとか。あとは赤字を出さないで、ちゃんと予算内でやろうとか。ブラックなやり方は格好悪いし、今の時代に通用しないと思うから。
 それからプロダクションのプロデューサーだとか、特に初めてご一緒する人には「どんなものを作りたいですか」って必ず聞くんですよ。興味のあることや趣味が分かると「あの人、スポーツの仕事やりたいって言っていたっけ」って、その人に合う仕事をお願いできるから。できるだけ仕事に関わるみんなが楽しめる座組みを意識しています。
見市:相手がクライアントでも制作スタッフでも、その人の考え方や好みをヒアリングするんだね。そういう風通しのいい作り方が明円らしさというか、仕事のシズルにつながっているんだと思う。たくさんの人に愛される理由が分かるよ。
明円:ひとりでは何もできないので、常にたくさんの方に力を貸してもらうんですね。僕がクリーンで健全じゃないと誰も集まってこないので、誠実な作り方を大事にしたい。
見市:バラエティー番組だったら、芸人さんの持ち味や魅力を引き出して番組全体を面白くしていく司会者的な立ち位置だよね。
明円:それがクリエーティブディレクターの役割ですよね。
明円卓氏 株式会社kakeru クリエイティブディレクター/プランナー
2014年より電通にてCMプランニングやコピーライティングを軸に統合コミュニケーションプランナーとして活動。2020年7月に電通を退社後、kakeruを創業。CHOCOLATEにも所属。過去の主な仕事に「意識高すぎ!高杉くん」シリーズ、「フワちゃんリモートCM作ってみた」など。恵比寿のコーヒー屋『JANAI COFFEE』の代表も務める。

見市沖氏 株式会社 電通 zero クリエーティブ・ディレクター/コピーライター/CMプランナー
2006年電通入社。近作はタイムツリーはじめました、ポッキー、パズドラなど。TCC新人賞、ACC賞、国際PRゴールデンアワードなど受賞多数。「世界に愛されるブランドをひとつでも多く増やす」がモットー。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。