電通CMクリエイター 見市沖のこれからのCMの話をしよう【明円卓氏・前編】第1回/全2回
手法にとらわれずフラットに課題を解決
電通のCMクリエイター・見市沖氏がCM制作の最前線で活躍するクリエイターと、これからのCMのあり方を探る連載企画。第4回の対談相手は、過去にKDDI『au』の「意識高すぎ!高杉くん」シリーズといったCMを手掛けたほか、アーティストのMV、コーヒー店『JANAI COFFEE』の運営など、幅広い領域のコミュニケーションを得意とする明円卓氏。前編では入社当時のお仕事や独立の経緯、今後のテレビCMとデジタルCMの捉え方などについてうかがった。(収録:6月18日)
【 CM INDEX 2021年8月号に掲載された記事を2回に分けてご紹介します。(第1回/全2回)】
※第2回は8月31日(火)に公開
※第2回は8月31日(火)に公開
— 幅広く活躍できるゼネラリストを目指し自分の場を意識的に作る
見市:明円と知り合ったのはTwitterだよね。同じ会社にいても部署が違うと、一緒に仕事する機会がなかなかなかったから。新橋のお好み焼き屋で「はじめまして」って。
明円:懐かしいですね。今日も6時間くらい話せそう。
見市:最初に聞きたいんだけど、CMは好き?
明円:めちゃくちゃ好きです。でも大学4年まで電通や博報堂の存在すら知らなかったんですよ。意識低い系の学生だったので。合同企業説明会で電通やコミュニケーションプランニングっていう考え方を知って、こんなに面白い世界があるのかと衝撃を受けたんです。そこからは澤本嘉光さんや高崎卓馬さん、TUGBOATといった広告界の方が僕にとってのスターになっちゃって。ミーハーに育ってしまいました。
見市:就活で広告業界を知る中で、CMの面白みに気づいたんだね。当時、好きなCMとかあったの?
明円:ひとつ挙げるなら佐藤雅彦さんが作られた湖池屋の『ジャガッツ』※1が一番好き。防犯カメラの映像に映った人の「湖池屋のジャガッツはこのギザギザがおいしい」っていうセリフが何度も繰り返されるっていう。「CMプランナーは技術で面白さを作るんだ!」と感動しました。
見市:雅彦さんの仕事にはルールがあるよね。明円はエモいストーリーより発明っぽいCMが好き?
明円:構造寄りのCMの方が今も好きな気がします。新しい仕組みを見つけるとか。
見市:なるほど。じゃあプランナーを目指していたんだ。
明円:そうですね。僕の世代はコミュニケーションプランニングが盛り上がっていた頃で、統合コミュニケーションにも興味がありました。ただ、入社してみるとそういう職種の人はまだ少なくて。当時はキャンペーン全体を統括する“ゼネラリスト”と、ひとつの分野を究める“スペシャリスト”のどちらに進むべきか、さまざまな考え方があって悩みましたね。クリエーティブ局への配属後はコピーライターの師匠とストラテジックプランナーの師匠という、ふたりのメンターに指導していただきました。会社としても実験的な取り組みだったと思いますが、おかげでいろいろなスキルを身に付けることができました。
見市:コピーライティングとストプラと、どちらが自分の背骨になると感じた?
明円:CM制作もストプラの仕事も楽しかったんですけど、篠原誠さん※2や木村隆太さんのような良い先輩がチームにいると、後輩の僕ができることってほとんどないんですよね。でもどうにかして自分の企画を世に出したかったので、コピーの100本ノックをやりながら「デジタルとPRやります!」「イベントの企画書やっときまーす!」みたいに、自分の活躍できる場を意識的に作っていました。
見市:周辺の仕事に手を挙げ続けることで、打席が増えて結果が出やすくなるって面白いね。結果的にはCMの仕事につながっているし。
明円:そうなんですよ。「CMの予算はないけど、何かやりたい」みたいな案件のときに「あいつならなんでも喜んでやってくれるよ」って声を掛けてもらえるので。とはいえCM作りも好きなので、ソーシャルやPR領域の経験を積みながら、クリエーティブの土台作りとしてコピー年鑑を勉強したり、ラジオCMで広告賞を目指したりしていましたね。
明円:懐かしいですね。今日も6時間くらい話せそう。
見市:最初に聞きたいんだけど、CMは好き?
明円:めちゃくちゃ好きです。でも大学4年まで電通や博報堂の存在すら知らなかったんですよ。意識低い系の学生だったので。合同企業説明会で電通やコミュニケーションプランニングっていう考え方を知って、こんなに面白い世界があるのかと衝撃を受けたんです。そこからは澤本嘉光さんや高崎卓馬さん、TUGBOATといった広告界の方が僕にとってのスターになっちゃって。ミーハーに育ってしまいました。
見市:就活で広告業界を知る中で、CMの面白みに気づいたんだね。当時、好きなCMとかあったの?
明円:ひとつ挙げるなら佐藤雅彦さんが作られた湖池屋の『ジャガッツ』※1が一番好き。防犯カメラの映像に映った人の「湖池屋のジャガッツはこのギザギザがおいしい」っていうセリフが何度も繰り返されるっていう。「CMプランナーは技術で面白さを作るんだ!」と感動しました。
見市:雅彦さんの仕事にはルールがあるよね。明円はエモいストーリーより発明っぽいCMが好き?
明円:構造寄りのCMの方が今も好きな気がします。新しい仕組みを見つけるとか。
見市:なるほど。じゃあプランナーを目指していたんだ。
明円:そうですね。僕の世代はコミュニケーションプランニングが盛り上がっていた頃で、統合コミュニケーションにも興味がありました。ただ、入社してみるとそういう職種の人はまだ少なくて。当時はキャンペーン全体を統括する“ゼネラリスト”と、ひとつの分野を究める“スペシャリスト”のどちらに進むべきか、さまざまな考え方があって悩みましたね。クリエーティブ局への配属後はコピーライターの師匠とストラテジックプランナーの師匠という、ふたりのメンターに指導していただきました。会社としても実験的な取り組みだったと思いますが、おかげでいろいろなスキルを身に付けることができました。
見市:コピーライティングとストプラと、どちらが自分の背骨になると感じた?
明円:CM制作もストプラの仕事も楽しかったんですけど、篠原誠さん※2や木村隆太さんのような良い先輩がチームにいると、後輩の僕ができることってほとんどないんですよね。でもどうにかして自分の企画を世に出したかったので、コピーの100本ノックをやりながら「デジタルとPRやります!」「イベントの企画書やっときまーす!」みたいに、自分の活躍できる場を意識的に作っていました。
見市:周辺の仕事に手を挙げ続けることで、打席が増えて結果が出やすくなるって面白いね。結果的にはCMの仕事につながっているし。
明円:そうなんですよ。「CMの予算はないけど、何かやりたい」みたいな案件のときに「あいつならなんでも喜んでやってくれるよ」って声を掛けてもらえるので。とはいえCM作りも好きなので、ソーシャルやPR領域の経験を積みながら、クリエーティブの土台作りとしてコピー年鑑を勉強したり、ラジオCMで広告賞を目指したりしていましたね。
※1. 1988年放送のCMで、防犯カメラが偶然とらえた「湖池屋のジャガッツはこのギザギザがおいしい」と話す女性たちの背後で逃走する容疑者を確認するべく、刑事が映像を何度も巻き戻して見るというストーリー。
※2. 過去に明円氏が篠原誠氏と手掛けたCMにはKDDI『au』の「三太郎」、「意識高すぎ!高杉くん」シリーズ、トヨタ『トヨタイムズキャンペーン』、富士フイルム『シャッフルプリント』、森永製菓『チュッパチャプス』などがある。
※2. 過去に明円氏が篠原誠氏と手掛けたCMにはKDDI『au』の「三太郎」、「意識高すぎ!高杉くん」シリーズ、トヨタ『トヨタイムズキャンペーン』、富士フイルム『シャッフルプリント』、森永製菓『チュッパチャプス』などがある。
— CMは解決手段のひとつ アウトプットの形式はさまざま
見市:独立した理由をあらためて聞かせてもらえますか。
明円:これからは会社ではなく、個人に仕事を頼む時代にシフトするのではと思ったことが大きいですね。ソーシャルの時代になって、個人の仕事や人となりが見えるようになったじゃないですか。
最近はデジタルネイティブ世代が仕事の決裁者になるケースも増えていて、SNSで好きなクリエイターを見つけることも珍しくないですよね。僕もSNSのDMで仕事を頼まれることがあって、それを機に独立を意識しました。
見市:独立してから、仕事への向き合い方で変わったことはありますか。
明円:去年からリモートワークをしているので、仕事の受け方はあまり変わらないですね。ただ、アウトプットの形式は本当になんでもよくなった。クライアントの悩みを根本からうかがっていると、CMはあくまでも解決手段のひとつだなと思うんです。クライアントの課題に向き合う深度が今までよりも深くなったと感じています。
見市:CMという前提にとらわれず、よりフラットな答えを出すということだね。
明円:場合によっては「この件は僕よりも適任の人がいるので、紹介しますよ」って、知り合いのクリエイターにつないでみたり。昨日もそうやって仕事を1件断ってしまいました。
見市:それをサラっと言えるのが憎いね。たしかに噛み合わないまま走りだしても、うまく着地しないだろうし。
明円:変化したことといえば、プロデュース業的な仕事が増えましたね。課題の解決策を納品できればいいので、必ずしも自分がメインで動かなくてもいいというか。最近の仕事だと『フランス語の注文しか受け付けない ふしぎなパン屋』※3もそうですね。
見市:語学アプリの『Duolingo』の企画だよね。
明円:諸星智也くんっていう優秀な後輩が中心になって、彼やフィルムチームやPRエージェンシーのメンバーがアイデアをポンポン出すうちに出来上がった感じですね。奥野圭亮さんと僕がCDでありつつ、プロデューサー的な役割で。彼らの案を見て「これ、いいね」みたいな。
見市:お店に行ってもフランス語で注文しないと、パンがもらえないっていう面白い取り組みだよね。
明円:これからは会社ではなく、個人に仕事を頼む時代にシフトするのではと思ったことが大きいですね。ソーシャルの時代になって、個人の仕事や人となりが見えるようになったじゃないですか。
最近はデジタルネイティブ世代が仕事の決裁者になるケースも増えていて、SNSで好きなクリエイターを見つけることも珍しくないですよね。僕もSNSのDMで仕事を頼まれることがあって、それを機に独立を意識しました。
見市:独立してから、仕事への向き合い方で変わったことはありますか。
明円:去年からリモートワークをしているので、仕事の受け方はあまり変わらないですね。ただ、アウトプットの形式は本当になんでもよくなった。クライアントの悩みを根本からうかがっていると、CMはあくまでも解決手段のひとつだなと思うんです。クライアントの課題に向き合う深度が今までよりも深くなったと感じています。
見市:CMという前提にとらわれず、よりフラットな答えを出すということだね。
明円:場合によっては「この件は僕よりも適任の人がいるので、紹介しますよ」って、知り合いのクリエイターにつないでみたり。昨日もそうやって仕事を1件断ってしまいました。
見市:それをサラっと言えるのが憎いね。たしかに噛み合わないまま走りだしても、うまく着地しないだろうし。
明円:変化したことといえば、プロデュース業的な仕事が増えましたね。課題の解決策を納品できればいいので、必ずしも自分がメインで動かなくてもいいというか。最近の仕事だと『フランス語の注文しか受け付けない ふしぎなパン屋』※3もそうですね。
見市:語学アプリの『Duolingo』の企画だよね。
明円:諸星智也くんっていう優秀な後輩が中心になって、彼やフィルムチームやPRエージェンシーのメンバーがアイデアをポンポン出すうちに出来上がった感じですね。奥野圭亮さんと僕がCDでありつつ、プロデューサー的な役割で。彼らの案を見て「これ、いいね」みたいな。
見市:お店に行ってもフランス語で注文しないと、パンがもらえないっていう面白い取り組みだよね。
※3. Duolingoが無料語学アプリのフランス語コース提供開始に合わせ、店頭に20秒間表示されるフランス語のフレーズで注文できた人にのみフランスパンをプレゼントするイベントを今年6月23、24日に実施した。
明円卓氏 株式会社kakeru クリエイティブディレクター/プランナー
2014年より電通にてCMプランニングやコピーライティングを軸に統合コミュニケーションプランナーとして活動。2020年7月に電通を退社後、kakeruを創業。CHOCOLATEにも所属。過去の主な仕事に「意識高すぎ!高杉くん」シリーズ、「フワちゃんリモートCM作ってみた」など。恵比寿のコーヒー屋『JANAI COFFEE』の代表も務める。
見市沖氏 株式会社 電通 zero クリエーティブ・ディレクター/コピーライター/CMプランナー
2006年電通入社。近作はタイムツリーはじめました、ポッキー、パズドラなど。TCC新人賞、ACC賞、国際PRゴールデンアワードなど受賞多数。「世界に愛されるブランドをひとつでも多く増やす」がモットー。
2014年より電通にてCMプランニングやコピーライティングを軸に統合コミュニケーションプランナーとして活動。2020年7月に電通を退社後、kakeruを創業。CHOCOLATEにも所属。過去の主な仕事に「意識高すぎ!高杉くん」シリーズ、「フワちゃんリモートCM作ってみた」など。恵比寿のコーヒー屋『JANAI COFFEE』の代表も務める。
見市沖氏 株式会社 電通 zero クリエーティブ・ディレクター/コピーライター/CMプランナー
2006年電通入社。近作はタイムツリーはじめました、ポッキー、パズドラなど。TCC新人賞、ACC賞、国際PRゴールデンアワードなど受賞多数。「世界に愛されるブランドをひとつでも多く増やす」がモットー。
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