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電通CMクリエイター 見市沖のこれからのCMの話をしよう【東畑幸多氏・後編】第2回/全2回


“個”の持つ「好き」の感覚を大切に

電通のCMクリエイター・見市沖氏がCM制作の最前線で活躍するクリエイターと、これからのCMのあり方を探る連載企画。第3回の対談相手は、ホンダの企業CM「Go, Vantage Point.」や宇多田ヒカルが出演するサントリー食品インターナショナル『サントリー天然水』などを手掛ける東畑幸多氏。後編ではCMを作る際に大切にしていることや、効率化の進む広告業界に対する考え方についてお話をうかがった。(収録:1月28日)
【 CM INDEX 2021年4月号に掲載された記事を2回に分けてご紹介します。(第2回/全2回)】
— 愛される広告は無駄と余白から生まれる
見市:CMが効かなくなってきたという話も耳にしますが、これからのCMについてどのようにお考えでしょうか。
東畑:CMというより広告全般の話ですが、効率化と価値化という二極化が進んでいると思います。特にここ数年で効率化を重視する傾向が強くなっていて、マーケティングとクリエイティビティはこれからどんどん離れていくような気がする。僕自身もマジョリティーにいたつもりが、最近ではマイノリティーになっている感覚がある。広告の作り手には効率化と価値化のどちらに軸足を置くのかという姿勢が問われるだろうし、広告のあり方もコンバージョンとブランディングに二極化するのではと思っています。
見市:今がちょうど過渡期ですね。
東畑:古川裕也さんも言われていたけれど、サービス精神を忘れて目先の利益だけを狩りに行く広告って、どんなに効率が良くても長続きしないし最終的には嫌われてしまう。もちろんすべての広告を価値化すれば良いわけではないし効率も価値も同じように大切だけど、今のまま放っておくと効率化だけが肥大していきそうで怖いですよね。将来的なことを考えると、9:1でもいいからオルタナティブなものがある方が健全だと思う。
 先日、『ほぼ日のおやつ展。』というイベントに行ったんですね。そこで「ほんとはなくてもガマンできるようなもの。でも、あったらうれしいもの。」といった糸井重里さんが書かれたメッセージを見たんです。それがとても印象的で。こういうあってもなくてもいい“おやつ”のような広告が作れたらいいなぁと思ったんです。こういう広告をデジタルでやるのは難しいけれど、偶然視聴が前提のテレビというメディアの中であれば成立するんじゃないかと思います。
見市:すてきな話ですね。東畑さんのようにキャリアを重ねていくと、社会性のある仕事に携わる機会も多いと思いますが、それだけだと少し息が詰まりますよね。
東畑:広告は社会と関係性を持つことが必要だけど、個人的にはおやつのような表現も作っていきたい。サントリー『カクテルバー』の「愛だろ、愛っ。」※なんかが近いかもしれない。ブランドも役者も作り手も輝いていて、いつ見ても憧れてしまいます。
見市:見ている人をワクワクさせますね。
東畑:機能性だけでは終わらない何かがあると思うんだよね。これはテレビに圧倒的な流通力があるからこそ生まれたクリエイティブかもしれない。長い間、多くの人に愛される表現は無駄と余白のあるところから生まれるんだと思う。無駄と余白こそが、ロジックをマジックに変えるブースターになるのではないでしょうか。
※ 1993年開始のサントリー『ザ・カクテルバー』のCMで、永瀬正敏出演のコミカルなシリーズがヒットした。「愛だろ、愛っ。」のコピーは佐倉康彦氏によるもの。
— 作り手の体や「好き」というフィルターを通すことがヒットのカギ
東畑:最近はエマ・ワトソンさんのケリング取締役就任や、アメリカの公有地の保護を訴えるパタゴニア初のCMといった社会課題の解決に向けた企業のより本質的な活動がブランド価値として注目されている。もちろんそういう社会性のあるキャンペーンにも興味はあるけれど、あらゆる広告がひとつの潮流に染まってしまったらつまらないですよね。
 テレビって、アーティストもいれば大道芸人もいるみたいな雑多な表現が入り混じっているからこそ、人の心を動かす強いパワーを発揮するんだと思う。効率や型にはまらず、広告の作り手一人ひとりの体や「好き」というフィルターを通すことがヒットのカギだと考えています。
東畑幸多氏 株式会社 電通 zero エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター
1999年電通入社。主な仕事に江崎グリコ『OTONA GLICOキャンペーン』、九州新幹線全線開業「祝!九州」、日清食品『カップヌードル』、サントリー食品インターナショナル『サントリー天然水』、ホンダ「Go, Vantage Point.」など。クリエイター・オブ・ザ・イヤー、TCCグランプリ、ACCグランプリ、カンヌライオンズ金賞など、受賞多数。

見市沖氏 株式会社 電通 zero クリエーティブ・ディレクター/コピーライター/CMプランナー
2006年電通入社。近作はタイムツリーはじめました、ポッキー、パズドラなど。TCC新人賞、ACC賞、国際PRゴールデンアワードなど受賞多数。「世界に愛されるブランドをひとつでも多く増やす」がモットー。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。