グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



TOP >  CM INDEX WEB >  Creator Interview 細田高広氏(TBWA\HAKUHODO)前編

Creator Interview 細田高広氏(TBWA\HAKUHODO)前編


言葉の力でブランドの意義を伝える

2020年9、10月度のCM好感度調査で総合1位に輝いた日産の企業CMなど、さまざまなヒットCMを手掛ける細田高広氏。広告コミュニケーションのほか、企業のビジョンや事業開発などグローバルブランドを中心に幅広い領域で活躍を続けている同氏に、広告制作におけるコピーライターの役割やこれからの広告のあり方についてお話をうかがった。
(収録:2020年12月4日)
【 CM INDEX 2021年2月号に掲載された記事を2回に分けてご紹介します。(前編)】
 ※後編は2月25日(木)に公開
— 木村拓哉さんを起用された日産のCMが大きな反響を呼んでいます
 日産は2020年7月に新たなブランドロゴとともに新型クロスオーバーEV(電気自動車)『日産 アリア』を発表し、翌8月に木村拓哉さんを起用した新CMを公開しました。ロゴの刷新に当たっては「コーポレートアイデンティティをどう捉え直すのか」「お客さまに何を伝えるべきか」など、さまざまな観点からグローバルのクリエイティブチームと検討を重ねました。その中で世界共通のテーマとなったのが、日産の技術で“新しい暮らし”を提案することだったのです。ここ数年で“技術の日産”というイメージは定着したものの、お客さまに技術を自分ごととして認識していただき、続々と生活に取り入れてもらう、というところまでは達成できていませんでした。そこで次のフェーズのマス広告では「日産の技術を使って、新しい暮らしを始めてみよう」と視聴者に深く共感してもらうことを目標に設定しました。このミッションの達成に向けてCMの企画を考えていた頃、木村拓哉さんが警察学校の厳格な教官を演じたドラマ『教場』をたまたま見たのです。今までのイメージと異なる役柄に挑む姿勢に胸を打たれたのと同時に、見る人を物語に引き込む存在感に圧倒されました。これまでのキャリアを振り返っても木村拓哉さんは常に一歩先のライフスタイルを自然に取り入れ、当たり前のように時代を作り続けていらっしゃいます。アンバサダーの候補についてはチームのメンバーとも相談しましたが、新生日産の顔として共感される新しい暮らしを提案できるのは木村拓哉さんしかいないと確信し、CMへの出演をお願いしました。
 当初は木村拓哉さんが日産 アリアのある生活を楽しむCMから開始する予定でしたが、コロナ禍でローンチが遅れ、あらためて企画を見直したのです。世の中の空気がガラリと変わり、誰もが不安を抱える中、何事もなかったかのように新たな価値観を提案しても受け入れられるとは思えませんでした。また自動車業界全体が大きな打撃を受けていたこともあり、まずはインナーのモチベーションを上げることが必要ではないかと考え、第1弾CMとなる「幕開け」篇を制作しました。「上等じゃねえか、逆境なんて」というセリフは日産社員の方々に向けたものです。日産の過去を踏まえた上で、「逆境だからこそできることがある」とブランドへの自信と誇りを思い起こしていただきたいという想いを込めました。「逆境」という言葉は、CMに使うには強すぎるワードかもしれません。けれども抽象的な表現に逃げてしまっては、あのとき、あのタイミングで、あえて日産としてブランドフィルムを作る意味はないと思ったのです。優等生的な言い回しではなく、どこかやんちゃで不良っぽいフレーズの方が日産のDNAに近いですし。最終的には副社長の星野朝子さんに「賛否両論あるくらいが日産らしい」と言っていただいたことから、自信を持ってこの言葉を送り出しました。
 2015年開始のCMコピー「やっちゃえNISSAN」を継続するかについては、かなり議論を重ねました。さまざまな部署の方に意見をうかがったところ、この言葉が単なる広告のキャッチコピーを超えて、日産の創業者である鮎川義介さんの遺した言葉「他のやらぬことをやる」の現代版として社内に定着していることが分かったんです。電気自動車に代表されるように、業界の流れに先駆けて新技術に挑むチャレンジ精神が創業時から社員の心に刻まれ続けている。実は1000を超える代案コピーを準備していたのですが、最終的には創業時から変わることのない日産の精神を「やっちゃえ」という動詞とともに受け継いでいこうという結論に至りました。一方、今回のキャンペーンから「やっちゃえ」の目的語については大きく変化させています。以前は技術への挑戦を「やっちゃえ」とけしかけていましたが、今回は日産の技術を使ってお客さまをワクワクさせること、つまり人の心を動かすことを「やっちゃえ」と言っているのです。
 木村拓哉さんには日産側の人間ではなくユーザーの代弁者としてCMに登場いただきました。「自動運転? 電気自動車? 正直どうなのって」といった自動車メーカーに対する懐疑的なセリフもあります。視聴者の本音を積極的に取り入れた方が、企業の言いたいことだけを都合良く伝えるよりも共感されやすいと考えました。木村拓哉さんは車好きとしても知られているので「一度使うとハマっちゃうんだよな」という言葉もリアルに聞こえますよね。また『リーフ』のCMではご本人の趣味である釣りをテーマに、愛犬の世話をするシーンなど車そのものではなく生活をメインに描いています。一連のCMには「木村拓哉さんだったら自動運転や電気自動車のある暮らしをこんなふうに楽しむんだろうな」「自分も乗ってみたい」などと予想以上に多くの視聴者からポジティブな評価をいただき、非常にうれしく思っています。
細田高広氏 TBWA\HAKUHODO エグゼクティブクリエイティブディレクター
2005年博報堂に入社後、TBWA\CHIAT\DAY(米ロサンゼルス)を経て現職。自動車・アパレル・スポーツ・金融・ビューティーなど多くのグローバルブランドのクリエイティブリードを務める。広告のほか、企業のビジョン開発、事業・商品・サービスのコンセプト開発を担ってきた。これまでにカンヌ金賞、ACCグランプリ、クリエイター・オブ・ザ・イヤー メダリストなど国内外で受賞多数
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。