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電通CMクリエイター 見市沖のこれからのCMの話をしよう【鈴木晋太郎氏・後編】第1回/全2回


予定調和を超えたチャレンジが必要

電通のCMクリエイター・見市沖氏がCM制作の最前線で活躍するクリエイターと、これからのCMのあり方を探る連載企画。第2回の対談相手は、深田恭子さんらが三姉妹を演じる『UQ』や橋本環奈さん出演の日清食品『カップヌードル』など数多くのヒットCMを手掛けてきた電通の鈴木晋太郎氏。後編では、鈴木氏の考えるヒットCMの要素、これからの広告業界に必要なことについてお話をうかがった。(収録:10月8日)
【 CM INDEX 2021年1月号に掲載された記事を2回に分けてご紹介します。(第1回/全2回)】
 ※第2回は1月28日(木)に公開
— ヒットCMの構成要素は“タレントと音”、本能的にクセになる楽曲を模索
見市:ヒットするCMの要素って何だろう。
鈴木:当たり前ですが、ひとつはタレントの良さをどれだけ引き出しているかということでしょうか。
見市:CM好感度ランキングで上位に入るのもタレントCMが多いように感じる。花王の『アタックZERO』は人気俳優を5人も起用しているね。
鈴木:アタックZEROのCMは「かわいい」って言われることが多いんですよ。松坂桃李さんや菅田将暉さんたち“#洗濯愛してる会”のメンバーが仲良さそうにワイワイしている様子が、なんだか愛おしくなるっていう。世の中が男性タレントに求めている要素って、今は「かわいさ」なんだと思います。
見市:確かに『au』の「三太郎」シリーズもそうだし、嵐の人気もそういうところにあるのかもね。
鈴木:逆に女性はカッコよく見せるのが好まれる気がします。『UQ』のCMも深田恭子さんら三姉妹が美しくクールに見えるように撮っているのですが、性別を問わず好評です。あと、ヒットするCMの要素はクセになる音。見市さんが手掛けられている『出前館』は『スーダラ節』が耳に残ります。
見市:テレビCMは視聴者の耳に意図せず入るからこそ、心地良い音にした方が間違いなく効果的になる。
鈴木:音ネタこそ感覚的な部分が大きいので、本能的にクセになってしまう音にしたくて、佐藤雅彦さんのCMを見返して勉強したりしてます。
見市:小学生に戻った気持ちで考えたりとか。
鈴木:音を決める際、クラシックのような有名曲は届き方がある程度想像できるので選びやすいのですが、その一方で複数のCMで同時期に同じ曲が流れるリスクもあるじゃないですか。クセになる音はオリジナルでも作れるし、印象的なのに誰も気付いていない曲もまだ隠れていると思うんです。
見市:『カップヌードル』の「旨辛豚骨」※1のCMソングは海外のナレーターさんが歌っているんだっけ。
鈴木:ベルリン・フィル管弦楽団に在籍していたホルン奏者の方ですね。その方が東京の地下鉄の駅名を歌い込んだ『地下鉄ポルカ』という歌を聞いて、これは耳に残るなと思い、替え歌にしました。見市さんはどんなものがヒットしていると思いますか?
見市:実は今、Nizi ProjectのJ.Y.Parkさんにハマってて。
鈴木:そういうところ、抜け目ないですよね(笑)。
見市:Nizi Projectは世界的なプロデューサーのJ.Y.Parkさんが日本の女の子をグローバルデビューさせる企画だから、日本人からすると誇らしい気分になれるんだよね。今って経済も停滞しているし、世界と比べたときに日本人は自分たちに自信を持てなくなっている。でも彼女たちがJ.Y.Parkさんから「あなたにはこんなにポテンシャルがあります」とか言われているのを見ると、自分が肯定されたような気分になるんだよね。『半沢直樹』も同じような理由でヒットしたんだと思う。要は自分に自信を持たせてくれたり、気持ちを鼓舞してくれたりするものを求めているんじゃないかな。
※1. 昔話をモチーフにしたイラストと「♪辛い味 いま流行」といったホルン奏者のクラウス・ヴァレンドルフ氏による調子外れの歌で展開した。男子小学生などに支持され、2020年9月度のCM好感度で新作4位につけた。
— CMプランナーが抱える制作上の“盲点”を意識
見市:CMに限らず、最近気になった表現はある?
鈴木:コロナ禍で一番良いと思ったのは『無印良品』のCM※2です。家の煙突や東大寺の大仏といったさまざまな場所を掃除する各国の人を映したCMで、オンエアで見たときは「なんだろうこれ」と目が離せなくなったんです。最後までコピーは出ないまま、ブランドロゴを映して終わってしまって。「やられた」と思いました。
見市:やられたっていうのは?
鈴木:音数の少ないピアノと掃除の音だけという音構成も印象的で、オンエアされているCMの中で明らかに浮いていたんです。それでいて無印良品らしさも前面に出ているという。
見市:たしかに掃除している人をただ見つめるっていう視点そのものが無印良品らしいね。
鈴木:そうなんですよ。もともとブランドの40周年に際して全世界的に展開された「気持ちいいのはなぜだろう。」というメッセージをもとにしたCMで、掃除している風景などはコロナ流行の前に撮影したらしいんです。ですがキャンペーンサイトで公開されたメッセージではコロナ禍についても触れられていて「世界が止まってしまった今、その写真や映像を見直すと、ごくあたり前の暮らしがとてもいとおしく感じられます」と。その考え方にも説得力があった。
見市:世界中が非常事態にあるときに、当たり前の暮らしに目を向けるという着眼点がいいね。
鈴木:CMは無印良品のボードメンバーとして、ブランドのアートディレクションを手掛けている原研哉さんによるものだそうです。『ハズキルーペ』を筆頭に、ここ数年で突出して目立ったCMって、広告会社のCMプランナーではない方が制作の中心にいることが多い気がします。だから正直に言うと、いまCMにおいて広告業界の人が業界外の人にボロ負けしていると思うんです。
見市:CMプランナーって、商品の特長やクライアントの伝えたいことを視聴者に届けるためにどんな表現を作るか、その“how”の部分を考える職能だけど、このCMは考え方の根本から違う気がする。どういう視点からCMを作るのかを起点にして、そこを軸に見えたものを素直に映像化している。howの部分を複雑に展開させていないからこそ、多くのCMの中でも埋もれずに際立って見えるのだろうね。
鈴木:広告会社のCMプランナーは気付かないうちに、CMに対するある種の制約を作ってしまっている気がします。あくまでも自戒を込めて、ですが。
見市:CM制作のクセというか盲点は意外とあって、俺たちは限定された範囲の中でもの作りをしているのかも。
鈴木:昔の方がもうちょっとチャレンジングなCMがあったと思うんです。無印良品のCMでいえば、コピーを入れない強さ。自分だったら絶対にタグラインを入れたくなる。僕はCM大好きなので、広告業界がCMにおいて新しいアプローチができていないことが悔しいんですよね。
※2. 良品計画が『無印良品』の40周年に際して放送したCM。2020年9月度の流通・販売業類ではCM好感度業類1位に輝いた。掃除の風景を収めた写真集『掃除 CLEANING』も発売している。
鈴木晋太郎氏 株式会社 電通 CMプランナー/コピーライター
1981年生まれ。東京大学大学院工学系研究科を修了後、2007年電通入社。情報システム局、営業局を経て、30歳でCMプランナーに。主な仕事に日清食品『カップヌードル』、日清焼そばU.F.O.、花王アタックZERO、Spotify、UQモバイル、湖池屋プライドポテト、タウンワーク、SOYJOY。ACCゴールド、TCC賞、ギャラクシー賞など受賞多数。

見市沖氏 株式会社 電通 クリエーティブディレクター/コピーライター/CMプランナー
2006年電通入社。近作はタイムツリーはじめました、ポッキー、パズドラなど。TCC新人賞、ACC賞、国際PRゴールデンアワードなど受賞多数。「世界に愛されるブランドをひとつでも多く増やす」がモットー。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。