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電通CMクリエイター 見市沖のこれからのCMの話をしよう【鈴木晋太郎氏・前編】第1回/全2回


無限の引き出しから“役に立つ”CMをつくる

電通のCMクリエイター・見市沖氏がCM制作の最前線で活躍するクリエイターと、これからのCMのあり方を探る連載企画。第2回の対談相手は、深田恭子さんらが三姉妹を演じる『UQ』や橋本環奈さん出演の日清食品『カップヌードル』など数多くのヒットCMを手掛けてきた電通の鈴木晋太郎氏。前編では、さまざまなタイプのCMを制作する鈴木氏がCM作りで大切にしていることを中心にうかがった。(収録:10月8日)
【 CM INDEX 2020年12月号に掲載された記事を2回に分けてご紹介します。(第1回/全2回)】
 ※第2回は12月25日(金)に公開
— CMが“役に立つ”ことを大切に
見市:宣伝会議さん主催のコピーライター養成講座からの付き合いだけど、あの頃は営業だったっけ。
鈴木:そうですね。
見市:いまや『UQ』の「三姉妹」シリーズや、“#洗濯愛してる会”の花王『アタックZERO』といったヒットCMを手掛ける、売れっ子プランナーなので、いろいろ話を聞いていきたいなと思うんだけど。
鈴木:そんなことないですよ。
見市:作風を限定しないというか、コミカル系から情緒的なものまで幅広いタイプのCMを手掛けているけれど、CM作りで一番大切にしていることって何だろう。
鈴木:表現の仕方は違っても、そのCMが役に立てばいいなと思って作りますね。
見市:「役に立つ」って、コピーライター養成講座で照井晶博さん※が言われていたことだ。
鈴木:そうです。「コピーとは何か」という質問に生徒がひと通り答えた後、「コピーとは役に立つ言葉です」って言われたのがずっと刺さっていて。
見市:すごい追っかけてくるよね、あの言葉。
鈴木:コピーを作るときって、商品価値をうまく言い当てようとか共感される言葉を見つけようとか思いがちですけど、結局はすべて役に立つ言葉を書くための手法なんだなと。いっそ商品名だけを言う方がクライアントの課題を達成できることもあるじゃないですか。
見市:物やサービスが売れることに寄与するだけじゃなくて、コピーによって企業やブランドが中長期的に愛されたり、社員が同じ方向を向くための指針になったりするよね。コピーがクライアントの企業活動全般に対して良い作用を及ぼす可能性があるということを照井さんは教えてくれたのかも。
鈴木:だから今はCMに置き換えて「役に立つ動画を作る」と考えています。クライアントのビジネスはもちろん、CMを見た人が前向きな気持ちになるとか、制作側や出演者も含めてCMが多くの人の役に立てばいい。
見市:照井さんが聞いたら喜ぶね。
※ サントリー食品インターナショナル『ボス』の「このろくでもない、すばらしき世界」をはじめ、『SoftBank』など数多くのCMのコピーを手掛け、日本マクドナルド『ごはんバーガー』の「ごはん、できたよ。」では本年度のTCC賞を受賞。
— 企業の社会に対するスタンスや“人間シズル”を広告でかたどる
鈴木:見市さんはCM作りで何を大切にしていますか。
見市:最近はスタートアップとの仕事が多いこともあって、お客さんとなるべく多く会うようにしている。特にスタートアップは、働いている人の人間性や、企業がどのようなスタンスで社会と向き合っているのかをそのまま広告で見せた方が親しみが湧くと思って。
鈴木:企業の持つパーソナリティーが肌感として感じられるってことですか。
見市:どの企業でも言えそうなメッセージでは人の心をつかめないから、what to sayやhowにこだわる前に、“人間シズル”というかwhoの部分を広告でしっかりかたどることを大切にしてるかな。
鈴木:特に経営層の方と直接話しながらCMを作ると、思いや人間性が色濃く出ますね。
見市:その方がいい仕上がりになるよね。ちなみに晋太郎がCMプランナーを目指したきっかけって何だったの。
鈴木:工学系の大学院で人工知能を研究していたのですが、当時は工学というジャンルそのものが「今後、何を目指せばいいのか」という迷走期に見えていて。就職活動中は何を仕事にしようか結構悩んだんです。工学部で学んだことを生かすなら、製品を通して暮らしを豊かにするといった生産的な仕事だったんでしょうけど、逆に生きる上で必要不可欠ではない仕事をしたいと思ったんですよね(笑)。なんとなく広告ならそんなに意味もなさそうだし、いいかなと思って、東急エージェンシーのリクルート用パンフレットに載っていた濱田雄史さんにお話を聞きに行ったんです。濱田さんとはご縁があって今は同じ局で働いているのですが、何も知らない僕が「コピーライターになれますか」と尋ねたら、「日本語できればなれるんじゃない」って言ってくださって(笑)。それで広告業界に行こうと決めました。
見市:恩師だね。
鈴木:そうです。クリエイティブをやりたくて入社したはいいものの最初は情報システム局で、そこから営業を経てクリエイティブに配属されました。
— 人の何倍もの経験が広告作りの地力に
見市:入社当初からCMプランナー志望だったの?
鈴木:コピーライター志望でした。コピーライターの小澤裕介さんが師匠なのですが、一緒に仕事をさせてもらう中で、今コピーライターに一番求められているのは、経営者と同じ視点に立ってビジネスのあり方や行く先を言葉にすることだと気付いたんです。これは、社会経験の浅い自分が一朝一夕に戦える場所じゃない。このままコピーライターを目指していては時間がかかると思い、CMプランナーの仕事に積極的に取り組むようになりました。
見市:クリエイティブに来たのは入社何年目?
鈴木:5年目です。クリエイティブへの転局試験に受かった時点ですでに30歳だったので、とにかく焦っていました。ほかの人より4、5年遅れているから、いろんな人に「仕事ください」とお願いして、来た仕事はほんとに何でも全部受けていましたね。
見市:めちゃめちゃ頑張る人ってイメージだった。
鈴木:たぶん人の2、3倍の案件をやっていたと思います。
見市:それが地力になっているんだね。
鈴木:そうですね。そうやって我武者羅にいろいろな方と仕事をさせてもらう中で、同じ部署に篠原誠さんがいて一緒に仕事をする機会が増えていったんです。CM作りの基本的なことはほぼ篠原さんに教わりました。
鈴木晋太郎氏 株式会社 電通 CMプランナー/コピーライター
1981年生まれ。東京大学大学院工学系研究科を修了後、2007年電通入社。情報システム局、営業局を経て、30歳でCMプランナーに。主な仕事に日清食品『カップヌードル』、日清焼そばU.F.O.、花王アタックZERO、Spotify、UQモバイル、湖池屋プライドポテト、タウンワーク、SOYJOY。ACCゴールド、TCC賞、ギャラクシー賞など受賞多数。

見市沖氏 株式会社 電通 クリエーティブディレクター/コピーライター/CMプランナー
2006年電通入社。近作はタイムツリーはじめました、ポッキー、パズドラなど。TCC新人賞、ACC賞、国際PRゴールデンアワードなど受賞多数。「世界に愛されるブランドをひとつでも多く増やす」がモットー。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。